会長にお許しを頂いてから、俺は来る日も来る日も紅本先輩の目を盗んで研究室の18禁を読みまくった。
こんなに短期間で大量に本を読んだのは多分生まれて初めてだ。漫画はともかく活字を読み慣れてない人間が何十冊も読破するのは非常にハードルが高かった。
だから小説の方は、気づいたらメインキャラクターの名前を俺と紅本先輩で脳内変換していた。
恋人らしいことはあのトイレの一件以来何もしてないけど、18禁小説で補充しているせいか全く欲求不満にならない。やはりBLは侮れない。奥が深い……。

「失礼しまーす」

今日も揚々と研究室へ行くと、部屋の奥で明野先輩がヘドバンしながら踊っていた。ヘッドホンをつけてるから、大音量で音楽を聴いてるみたいだ。
その手前には紅本先輩が、オトコ同士のエッチシーンを描いていた。
改めて思ったけど、先輩はとても絵が上手い。
自分のホームページに載せてるらしい。ブクマしたくてURLを訊いたけど、18歳未満には駄目だと言って教えてくれなかった。いつか俺にも見せてくれるかな……?

色々考えてると、先輩は俺に気付いて笑顔でやってきた。

「未早。おつかれさま」
「お疲れさまです、先輩」

研究室では特に変わったこともなく、先輩はイラストを描いていた。けど。
「そういや未早、最近は全然18禁見たいって言わなくなったなぁ」
「あぁ、だって腐るほど見てますもん。腐男子だけに、腐るほど」
「はっ?」
「すいません、今のは滑りましたね。……あっ」
反射的に口を手で塞いだけど、時すでに遅し。紅本先輩はめちゃくちゃ無表情だった。
美人の真顔が怖いというのは本当だ。俺は今目の前の人が怖くてしょうがない。
「……未早、それどういうこと?」
「み、見てません! 俺は何も!」
と言いつつ、何故か俺の体は既に土下座の体勢をとっていた。殺される。絶対殺される。
「あんなに見るなって言ったのに、結局見てたのか……」
「いや、見てな……いや、見てました! すいません!」
もう先輩に嘘は通用しない。素直に認めて勢いよく頭を床に叩きつけたけど痛いのなんのってうあああああぁぁぁぁぁぁ
「未早、ちょっと来い」
「ひああぁぁぁっ! 本当にすいません! いやああぁぁぁぁ明野先輩たすけてえぇぇっ!」
「うるさいわ! 何もしないから来い!」
今までにない恐怖に押し潰されそうだった。必死に助けを求めたけど、ヘッドホンをして踊り狂ってる明野先輩はこちらに気付く様子はなく。
紅本先輩に襟を掴まれ、廊下まで引きずり出された。