この本を死守しないと大変なことになる。二度とこの部屋の敷居を跨げないかもしれない。ていうかここだけじゃなく、学校自体。
「勝手に読んですいません。でも本当に面白かったんです。どうかもうちょっとだけ俺をこの本の傍にいさせてください! 中は見ないから!」
「表紙が既にエロいからだめ。お前にはまだ早いよ」
「でもでも、泉名会長は暗黙の了解で見ていいって言ってました!」
「暗黙の了解ってのは口に出した瞬間暗黙じゃなくなるんだよ……!」
引っ張り合ってるから漫画が傷んでしまいそうだ。紅本先輩もそれは思っていたみたいで、今度は強い調子で叫んだ。
「未早、とにかく一回手を離せ! 本がダメになる!」
あっ。先輩の声に驚いて、気付いたら手を離していた。
「ふー、良かった。お前が積極的にBLを読んでくれるのは嬉しいけどさ、読みたいならもっとノーマルなものを……」
どうしよう。
どこかへ行った方が良いと思うけど、……限界までアソコが昂ってて動けない。
「未早?」
「ぅあっ!」
膝を掴まれて、女みたいに高い声を上げてしまった。
やばい。
紅本先輩の視線が、恐れていた脚の間に向く。
「……え。未早……もしかして、勃ってる?」
「……っ!!」
───バレた。どう反応していいか分からなくて泣きたくなる。
先輩だって、どう反応していいか分からないだろう。後輩が学校で勃起してたら。
お互いにどうしようか考えていた。それはほんの数秒だけど。
「!」
廊下から、人の話し声と足音が聞こえたから。
こっちに来る……!
声は大きくなり、間違いなく近付いてきている。もうダメだと泣きたくなったけど、
紅本先輩は自分のブレザーを脱いで、俺の膝元にかけた。
「大丈夫だから、ちょっとだけ我慢しろよ」
その言葉の直後に部屋の扉が開く。入って来たのは泉名会長と明野先輩だった。
「やっほー! 紅本に未早くん、今日も元気に腐ってる?」
「明野はもう……二人とも、何してたの?」
賑やかな二人に、紅本先輩はさっと立ち上がって対応した。
「あぁ、本読んでた。でもちょっとだけ抜けるな。未早が体調悪いみたいだから、保健室に連れていく」