意味が分からなくてまた数ページ前を捲る。
すると後輩の少年が、病院の産婦人科で医師から妊娠を告げられていた。
「何でだよ!! 全然分かんないよ!!」
「未早、何ひとりで騒いでんだ」
「先輩、見てくださいよ! このひと男なのに妊娠してますよ! ご懐妊おめでとうございます、って……どゆこと!? 宇宙人ですか!? あれ、これSFだったかな!?」
「落ち着け。最近は普通だよ、それ」
「普通!? これ最近は普通なんですか! じゃ俺が時代遅れ!? そんな……怖い!!」
パニックに陥りながら捲し立てると、先輩は持っていた本をテーブルに置いた。
「大丈夫だから落ち着きな。漫画の中で普通なの。最近のBLは子どもを作れる機能を持った種族がいてさ。他にもたくさんのタイプがいるんだけど、一般社会の中に紛れて上手くやってんの」
「……!?」
だめだ。
先輩の説明だと、エイリアンが人間のフリして社会に溶け込んでるみたいにしか聞こえない。
BLってSFだったのか? 頭にマイクロチップでも埋め込まれてるんだろうか。いや絶対おかしいだろ、近未来すぎる。
男が出産……サイコやオカルト系の洋画ならたくさんありそうですけれども……。
「ほんと、こんな未来あったら素敵だよなぁ」
「いやこんな未来あったら困りますよ! マイクロチップなんて俺は嫌です! あれは記憶も操作されて、ほとんど別人みたいなもんですから!」
「マイクロチップ……?」
「先輩、目を覚ましてください! 絶対無理ですよ、男は出産の痛みに耐えられないって聞きますもん! 俺達に陣痛なんてきたら即心肺停止です!」
「あぁ、だとしてもさ。同性同士でも、好きな相手の子どもを授かれる。すごく幸せなことだと思わねぇ?」
先輩は一切冗談を感じられないけど優しい顔で笑った。
確かに現実に置き換えれば、子どもは切実でデリケートな問題だ。笑い話にしてはいけないし、先輩の言うことも一理ある。
「……そういうことですか……そうですね。確かに……えぇ、素晴らしいことだと思いますけど……」
あ、そういえば今日初めて見る先輩の笑顔だ。
気付いたら全身の緊張も解けていた。はー、でも逆に今の話で冷や汗かいたぞ。
「つーかお前、それは18禁だから読んじゃダメ! お前にはまだ早い。没収な」
「あっ! ちょっと返してください! まだ、この話のイケメン先輩が海に身投げした理由が分からないんです!」