真夜中にまた目が覚める。本能的にというか、何か嫌な予感がした。
自身のSNSをチェックした。本アカウントについては特に問題ない。複数アカウントの存在がバレたら大ピンチだが、そんなヘマはしない。
「気のせいか」
どちらかと言えば自分へ言い聞かせるように呟く。そうだ、嫌な予感なんて気のせいなんだ。昨日の夜以上に嫌なことなんて起こるはずがないんだ。
だが、依然として妙な気持ち悪さで胸がざわつく。再び寝つくのが難しい気がした。こういう時は書くに限る。
俺はパソコンを開くと、趣味で連載しているネット小説の続きを書くことにした。鮫島一味が俺のことをどう思っていようが、作品を完成させるのは読者への誠意でもある。作品をエタらせない。技術的な巧拙はともかく、俺の数少ない美点でもある。
小説サイトにログインすると、「感想がきています」のメッセージ。
――ああ、嫌なことがあるとこうやっていいこともあるんだな。そうやって世界はバランスを取っているんだな。
ネット小説で感想が来るというのは珍しい。トップどころのランカーであれば感想なんてザラだが、多くのネット小説は少数から知らぬ間に読まれて、いいのか悪いのかも言及されずに忘れ去られていく。
だが、たまにこうやって感想を書き込んでくれるユーザーもいる。普段から放置プレイに慣れた我ら弱小作家は、「まあ面白い」程度の感想でもしばらくはずっと幸せでいられるものだ。
今度はどんなことが書かれているんだろう?
少しばかりドキドキとしながら感想のページを開く。
「は?」
視界に入ったものを見た俺はフリーズする。
【!!注意!!】
この作者である鬼頭守は日頃から誹謗中傷を繰り返し、クラスメイトのありもしない悪評をバラまきました。それも他の人の名前を使って行うという悪質なものです。
こ の 男 は 将 来 間 違 い な く 罪 を 犯 し ま す 。
その後に俺の投下したコメントが一部加工され、KJやじゅりぴの名誉を棄損しようとした極悪人として描かれている。
マジか。たしかに丹羽君の仕業に見せかけようとしたのは事実だが、ここまでやるか。スクリーンショットとして添付されている画像は記載の文章が加工されていた。
お前こそ捏造しているじゃないかと言いたくなったが、それを言えば自分で書き込みをやった犯人と名乗り出るようなものなので言えない。なんて卑怯な奴らだ。
とはいえ、マズいぞ。これは本名バレというやつではないか。
これで住所まで書きこまれていたら最悪だったが、さすがに住所は知らなかったのか本名晒しだけで終わっていた。
「クソが」
感想のラベルが付いた最悪な文章をスクリーンショットに収めると、運営に画像添付で送り付けてから感想を削除する。おそらくまた同じようなことを書き込んでくるはずだから、すべての作品を「感想を受け付けない」の設定にした。お陰で面白かったと思った人間がいても、それを文字で表明することは出来なくなった。
最悪だ。だが、それで終わりではなかった。
SNSのアイコンを開くと、本アカに通知がたくさん届いていた。嫌な予感がした。本アカはペンネームだ。考えてみたら、これが嗅ぎつけられないはずがないのだ。
通知を見る。案の定、知らない奴らから大量の誹謗中傷が寄せられていた。クソリプなんてものじゃない。遠回しな殺害予告めいたメッセージも大量に届いている。
あまり深く読まないようにざっと目を通した。その中に何らかの手がかりがあるはずと思ったからだ。手がかりも何も、犯人は明らかだが。
悪意のあるメッセージのうちに気になるものがあった。
「くだらない小細工やってんじゃねーよカス。だからお前は陰キャの童貞なんだよ。この亀頭野郎。キートンじゃなくてキトゥーンに改名しろwwwww」
メッセージの発信元はシャーク将軍とあった。鮫島だろう。鮫のくせに陰湿な野郎だ。俺は自分のことを棚上げにして毒づく。
鮫島に裏をかかれた。それを思うと、頭に血が昇るのが分かった。あんなクソ野郎に駆け引きまで負けるのは気に入らない、というか許しがたい。
クソ、クソ、クソ……!
あんな野郎に、あんな野郎に……!
はらわたが煮えくり返るというのはこういう状況を言うのだろう。マジで深夜に発狂しそうだった。
さっきの書き込みもあり、ずっと育ててきた今のペンネームではもう活動が出来ないだろう。弱小とはいえ、年単位で築き上げてきた自分の足跡を丸ごと消されたようで憎しみしか沸いてこない。
――赦さねえぞ、鮫島。
あいつの裏の顔を暴いてやりたい。あいつがどんなに最低な奴か、世界中の人間に知らしめてやりたい。
どうすればあいつをぶっ潰すことが出来るのか。そんなことを考えていると、作家名義のアカウントにメールが届いているのに気付いた。
本名じゃない方のアカウントにメールが届くのは珍しい。散々「感想はこちらのメールアドレスまで」とか書いてきてはいたが、実際に作品の感想を送ってきた者は皆無だった。
「また中傷メールってやつか?」
無題のメールを削除するか否か迷う。
こういう得体のしれないメールは罠の場合が多いし、ファンを装って鮫島一味がさらなる嫌がらせを仕掛けてきている可能性もある。
だが、本能が「このメールを開け」と言っていた。野生の勘を信じる方じゃないし、自分が特別な才能を持っている者だとも思わない。
だけど、それでもこのメッセージには何かがある気がした。
「まあ、今さら失うものなんて無いし」
俺はメールを開くことにした。新着のメッセージを選択し、「開く」をクリックする。
そのメールが、のちの人生を大きく左右するとも知らず。
自身のSNSをチェックした。本アカウントについては特に問題ない。複数アカウントの存在がバレたら大ピンチだが、そんなヘマはしない。
「気のせいか」
どちらかと言えば自分へ言い聞かせるように呟く。そうだ、嫌な予感なんて気のせいなんだ。昨日の夜以上に嫌なことなんて起こるはずがないんだ。
だが、依然として妙な気持ち悪さで胸がざわつく。再び寝つくのが難しい気がした。こういう時は書くに限る。
俺はパソコンを開くと、趣味で連載しているネット小説の続きを書くことにした。鮫島一味が俺のことをどう思っていようが、作品を完成させるのは読者への誠意でもある。作品をエタらせない。技術的な巧拙はともかく、俺の数少ない美点でもある。
小説サイトにログインすると、「感想がきています」のメッセージ。
――ああ、嫌なことがあるとこうやっていいこともあるんだな。そうやって世界はバランスを取っているんだな。
ネット小説で感想が来るというのは珍しい。トップどころのランカーであれば感想なんてザラだが、多くのネット小説は少数から知らぬ間に読まれて、いいのか悪いのかも言及されずに忘れ去られていく。
だが、たまにこうやって感想を書き込んでくれるユーザーもいる。普段から放置プレイに慣れた我ら弱小作家は、「まあ面白い」程度の感想でもしばらくはずっと幸せでいられるものだ。
今度はどんなことが書かれているんだろう?
少しばかりドキドキとしながら感想のページを開く。
「は?」
視界に入ったものを見た俺はフリーズする。
【!!注意!!】
この作者である鬼頭守は日頃から誹謗中傷を繰り返し、クラスメイトのありもしない悪評をバラまきました。それも他の人の名前を使って行うという悪質なものです。
こ の 男 は 将 来 間 違 い な く 罪 を 犯 し ま す 。
その後に俺の投下したコメントが一部加工され、KJやじゅりぴの名誉を棄損しようとした極悪人として描かれている。
マジか。たしかに丹羽君の仕業に見せかけようとしたのは事実だが、ここまでやるか。スクリーンショットとして添付されている画像は記載の文章が加工されていた。
お前こそ捏造しているじゃないかと言いたくなったが、それを言えば自分で書き込みをやった犯人と名乗り出るようなものなので言えない。なんて卑怯な奴らだ。
とはいえ、マズいぞ。これは本名バレというやつではないか。
これで住所まで書きこまれていたら最悪だったが、さすがに住所は知らなかったのか本名晒しだけで終わっていた。
「クソが」
感想のラベルが付いた最悪な文章をスクリーンショットに収めると、運営に画像添付で送り付けてから感想を削除する。おそらくまた同じようなことを書き込んでくるはずだから、すべての作品を「感想を受け付けない」の設定にした。お陰で面白かったと思った人間がいても、それを文字で表明することは出来なくなった。
最悪だ。だが、それで終わりではなかった。
SNSのアイコンを開くと、本アカに通知がたくさん届いていた。嫌な予感がした。本アカはペンネームだ。考えてみたら、これが嗅ぎつけられないはずがないのだ。
通知を見る。案の定、知らない奴らから大量の誹謗中傷が寄せられていた。クソリプなんてものじゃない。遠回しな殺害予告めいたメッセージも大量に届いている。
あまり深く読まないようにざっと目を通した。その中に何らかの手がかりがあるはずと思ったからだ。手がかりも何も、犯人は明らかだが。
悪意のあるメッセージのうちに気になるものがあった。
「くだらない小細工やってんじゃねーよカス。だからお前は陰キャの童貞なんだよ。この亀頭野郎。キートンじゃなくてキトゥーンに改名しろwwwww」
メッセージの発信元はシャーク将軍とあった。鮫島だろう。鮫のくせに陰湿な野郎だ。俺は自分のことを棚上げにして毒づく。
鮫島に裏をかかれた。それを思うと、頭に血が昇るのが分かった。あんなクソ野郎に駆け引きまで負けるのは気に入らない、というか許しがたい。
クソ、クソ、クソ……!
あんな野郎に、あんな野郎に……!
はらわたが煮えくり返るというのはこういう状況を言うのだろう。マジで深夜に発狂しそうだった。
さっきの書き込みもあり、ずっと育ててきた今のペンネームではもう活動が出来ないだろう。弱小とはいえ、年単位で築き上げてきた自分の足跡を丸ごと消されたようで憎しみしか沸いてこない。
――赦さねえぞ、鮫島。
あいつの裏の顔を暴いてやりたい。あいつがどんなに最低な奴か、世界中の人間に知らしめてやりたい。
どうすればあいつをぶっ潰すことが出来るのか。そんなことを考えていると、作家名義のアカウントにメールが届いているのに気付いた。
本名じゃない方のアカウントにメールが届くのは珍しい。散々「感想はこちらのメールアドレスまで」とか書いてきてはいたが、実際に作品の感想を送ってきた者は皆無だった。
「また中傷メールってやつか?」
無題のメールを削除するか否か迷う。
こういう得体のしれないメールは罠の場合が多いし、ファンを装って鮫島一味がさらなる嫌がらせを仕掛けてきている可能性もある。
だが、本能が「このメールを開け」と言っていた。野生の勘を信じる方じゃないし、自分が特別な才能を持っている者だとも思わない。
だけど、それでもこのメッセージには何かがある気がした。
「まあ、今さら失うものなんて無いし」
俺はメールを開くことにした。新着のメッセージを選択し、「開く」をクリックする。
そのメールが、のちの人生を大きく左右するとも知らず。