岡莉奈の長い独演会が終わった。

 全身が麻痺したように動かない。いや、思考さえもまるで働かない。

 あまりにも情報量が多過ぎたのと、彼女の告白を本能が拒絶していた。

 ――目の前の少女は、本当に俺が好きだった岡莉奈なのだろうか?

 信じることが出来ない。俺は何か悪い夢を見ているだけなのではないか。それだったらどれだけ楽なことだったか。依然として体は凍り付いたみたいに動かなかった。

「さて」岡莉奈のひと声で我に返る。

「以上が解決編になるけど、何か質問はある?」

 岡さんが今までに見せたことのない冷たい微笑で訊いた。その時になって、初めて俺は彼女へ過剰な幻想を抱いていたことに気付いた。俺の心理状態が手に取るように分かるせいか、岡さんも心なしか嬉しそうに見えた。

 ――この女は間違いなく狂っている。

 自分らしく生きられない怨みを晴らすために、何人もの人々を犠牲にした上に、世界中を混乱に陥れている。しかも、そこに罪の意識はなく、何の責任も感じていない。

 モンスター――美少女に不釣り合いな言葉が浮かぶ。

 彼女を取り囲む歪んだ考えや環境が、取り返しのつかないバケモノを生み出した。それは今、暇つぶしの感覚で途轍もない混乱を世界に引き起こそうとしている。

 岡さんはじっと俺を見つめている。どこか悲しげな、そして、自身を取り囲む世界への果てしない怒りを内包した静寂な佇まい。その眼を見た時、俺たちはもうあの頃に戻れないのだと悟った。

「どうしてだ?」
「ん?」
「どうして、俺を選んだんだ?」
「どういうこと?」
「ほら、他にもいたはずじゃないか。もっと、君の理想に沿うような誰かが。君の力をもってすれば、何も俺のクラスで作戦を開始する必要はなかったはずだ」

 そう言うと、岡さんは「ああ、なるほど」といった顔で少しだけ考え込んだ。

「どうしてだろうね。強いて言えば、鬼頭君に引き金をやってもらいたかったのかな」

 そう言うと、彼女は少しだけ目を逸らした。

「鬼頭君といるとね、わたしもすごく楽しかったんだよ。君ってそこまで女の子に興味がないっていうか、一緒にいても手を出そうとしてこなかったし、わたしとしては同じ空間を占めていても苦痛がなかった」
「つまり、人畜無害だから扱いやすかった?」
「違うって。ほら、なんていうか、自分の人生を幕引きするなら、それはそれなりの人にしてほしいっていうか……」

 彼女はゴニョゴニョと言葉を濁しはじめた。意味が分からない。

「じゃあ、質問を変えよう。岡さん、君はこの後、どうするつもりなんだ?」

 わざわざ「解決編」とまで称してネタバラしをしたのだ。普通に考えて、この先を考えていると判断するのが妥当だ。

「実はまだ、投下していない爆弾ネタがあるの。それも、今度はフェイクニュースではないものが」
「なん、だと……?」

 岡莉奈は不気味なほど感情の消えた目で微笑んで続ける。

「わたしは、父親から性被害を受けて育ったの」