「どういうことだ?」

 状況が呑み込めず、俺はひたすら混乱する。

「なあ、岡さん。どうしたんだ? 今は夜だぞ」
「そうだね」

 星空の下で微笑む美少女。変な夢でも見ているのだろうかと思う。

 ワンチャン夢だったらとベタに頬っぺたをつねってみたが痛かった。夢オチとはいかないらしい。

「なんでここに君がいるんだ?」

 もう理由は分かったようなものだが、それでも彼女を信じたいという願望でもあるのか、愚かな質問が口をついて出る。

 その希望を叩き切るように、目の前の美少女が口を開く。

「オフ会に来たの」

 沈黙が流れる。岡さんはいくらかの虚無感を孕んだ表情でいまだに微笑み続けていた。

「……君が、煉獄のスケキヨだったのか?」
「うん。そうだよ」

 再び沈黙が場を支配する。

 思考が完全に止まっていたが、時間差で色々なことが腑に落ちはじめる。

 鮫島一味についてやたら詳しく知っていたこと。そして、グラシアス・ヒル・コーポレーションについてやたらと詳しかったこと。そして、彼らや会社を陥れるために最も有効な手段を次々と提案出来ていたこと。

 種明かしをすれば何も難しいことなどない。煉獄のスケキヨは初めからターゲットにとって内部の人間だったのだ。だからこそ通常では知り得ない情報を掴んでいたのだ。今までああでもないこうでもないと思考をこねくり回し、シンジケートの存在すら知覚しはじめた自分がバカみたいに感じる。

 グラシアス・ヒル・コーポレーションの炎上についても同じだろう。あらかじめ会社の弱点を知っていた岡さんは、どこを突けば会社のアキレス腱になるかを知っていたのだろう。なんだかんだ創業者の孫だ。情報を得るルートはいくらでもあったはず。

 でも――

「どうして? って顔をしているね」

 俺の心を読んだように岡さんが口を開く。

 今までに見たことのない表情だった。俺の知っている岡莉奈は純粋無垢で、穢れを知らない美少女だったのに。

「幻想を壊して申し訳ないけど、わたしもそんなに出来た人間じゃないの」

 また心を読まれた。どこまでもお見通しなのか。

 呆然とする俺を前に、岡さんが口を開く。

「まあ、鬼頭君は私にとっても特別だから、教えてあげてもいいでしょう」

 そう言う彼女は「覚悟は出来てる?」という念を送ってくる。俺は無言で頷いて、自らの覚悟を示した。

 これから彼女の「ネタバラし」が始まる。