――今日という日が、俺の人生最悪の日になるかもしれない。

 幽体離脱でもしているかのように、教室の床で這いつくばる自分を見下ろす。まるで他人事だった。このまますべてが終わればどれだけ楽だったか。

「おい、亀頭。テメーはいちいちキメーんだよ」

 後頭部に衝撃。強い圧力。

 俺は亀頭じゃない。鬼頭守(きとう まもる)だ。

 心の抗議も空しく、後頭部をより強い力で踏みつけられる。

 土下座するように言われた俺は、床に膝をついたまま頭を踏まれた。固い床に額をぶつけたせいで、頭蓋骨の内側がジンジンと痛む。

 踏みつけているのは、このクラスを支配するボスだった。

 鮫島賢司(さめじま けんじ)――バスケ部のエースであり、スクールカーストの最上位。高身長にイケメン、頭も切れて喧嘩が強いという最強のラスボス。

 最悪だ。よりにもよってこんな奴に目をつけられるなんて。

「お前の小説とやらを読んだけどよ、本当に隅から隅までキモいんだよ。童貞丸出しで、お前の願望が丸見えなんだよ!」

 後頭部にかかる圧力が強くなる。固いタイル貼りの床が痛くて、顔の向きを横へずらした。罪悪感で押しつぶされたような顔の岡莉奈(おか りな)と目が合う。

 目下行われているつるし上げの発端は彼女だった。いや、正確に言えば、彼女にまつわる小説を書いたことだった。