走り込みは春蘭もとい花音の専売特許である。彼女が打ち込んできた走り込みには、毎日朝早くに起床してランニングしたり、スパートを掛ける練習として短い距離を全力ダッシュしたりといくつかの種類があるのだ。

(私がやってきた走り込みを浩国に伝えよう)

 春蘭は走り込みについて浩国に身振り手振りを交えながら伝えると、浩国は振り向きながらふむふむ。と首を縦に振った。

「やはり走り込みにはなるのか……」
「……苦手でございますか?」
「あまり良い印象は湧かんな」
(やっぱりそうなるか……)

 同級生が体育の授業で行われる持久走を嫌がっていた記憶を思い出した春蘭はわかるわあ……。と感じつつも浩国へ優しい視線を向けた。

「最初はあまり走れなくてもいいんです。徐々に慣らしていけば大丈夫ですから」
「……確かに春蘭の言う通りだな」

 浩国は春蘭から木桶を受け取り、浴槽の湯をバシャッと頭から被ると、下腹部を覆う手ぬぐいを腰に巻いて浴槽に入った。

「もう帰っていいぞ。助かった」
「いえ。満足いただけて何よりでございます」