「痒い所はございませんか――?」

 美容師の真似事をするように春蘭は作り笑いを浮かべながら浩国に声をかけた。

「大丈夫だ」
(そっかあ……)
「か、かしこまりました。陛下……」
「……俺はまだまだのようだな」

 浩国の言葉に春蘭はいかがされました? と問う。

「さっきの鍛錬でも、途中で息が上がっていただろう。以前よりかは見違えるほど息が持続するようになったが、それでも雄力と比べたらすぐに……」

 拳を握りしめながら語る浩国の声音には、悔しさが滲み出ていた。

 ――そなたと俺は身体の作りが違う。それに身体を動かすと息が切れる。

 彼が以前語っていた言葉が春蘭の脳裏にぼんやりと浮かんだ。

(多分食生活を変えた事で貧血みたいなのは改善してるのかもしれない。となると、あとは……スタミナをつける事。それなら……)
「陛下。良い案がございます」

 春蘭は言い終わるのと同時に浩国の背中を拭い終え、浴槽からお湯を木桶で掬って彼の背中に駆けていく。

「なんだ?」
「走り込みしませんか?」
「走り込みだと?」