すると、春蘭の心臓がどきっと跳ねる。病的なものではないのはすぐに理解できたが、それでもどういう事なのかまでは理解できなかった。
 春蘭の異変に気付く事無く浩国は息を切らし、流れる汗をぬぐう事無く雄力に真っ向勝負を挑んでいる。

「まだまだでございますな! その程度で音を上げられては困ります!」
「なら、これでどうだ!」
「良いですよ良いですよ! その調子でございます!」
「はあっ!」

 息も絶え絶えな浩国の拳が空気を切り裂いていく。その剛健ぶりに春蘭の瞳はいつしか吸い込まれそうになっていた。

(……すごい)

 その後。浩国は這いつくばるようにして夜遅くまで雄力や他の兵士と共に武術の稽古に励んだのである。
 汗にまみれた肉体を春蘭が我慢できずに凝視していると浩国はああ、そうだ。と口を開いた。

「春蘭、俺は今から湯浴みをする。背中を流してくれないか?」
「え」