女官からの話を聞いた春蘭は真面目だな……。と感じていたのだった。
 移動の途中、雨がしとしとと降って来る。そのせいか空気も少しだけひんやりと冷気をまとい始めた。

(寒くなって来たかも)
「金賢妃様。羽織をご用意いたしましたが、どうなさいますか?」
「すみません、着ます」

 羽織と言っても薄い衣。それだけでは寒さはあまりしのげない。だが、女官のひとりが赤いマントを用意していたので春蘭はそのマントを羽織る事にした。
 マントは赤い布に黄色や緑色の糸で細やかかつ壮麗な刺繍が施されている。

(刺繍すんごい派手で綺麗だし豪華なマントだ……)

 ごとごと……。と御輿は雨が降る中を移動していく。途中、春蘭は足首や膝の関節に腰やお尻が痛くなったので体勢を何度も変えながら耐えるのを繰り返した。そして雨足が少し弱まった時、御輿が止まる。

(到着したのかな?)
「金賢妃様。御輿を降ろしますので動かないでいてくださいませ」

 外から重臣らしき男性に声を掛けられ、言われた通りにすると御輿が地面へと下がっていく。

「もう大丈夫でございます。どうぞ御輿から外へどうぞ」

 兵士らが傘をさしてくれる中、春蘭は御輿から外に出た。

「ここが……虎楼城」

 曇天の中、巨大な壁が目の前にそそり立っていた。