春蘭は女官達の前に向き、キリッと真剣な顔つきを見せる。

「確かに馬族の方達は一筋縄ではいかない方達なのは存じております。しかしながらこの役目は陛下が私を信頼しているという証でもあると思うんです」
「金賢妃様……」
「私は陛下の役に立ちたいです」

 力強く言い放った春蘭に、女官達からは万雷の拍手が巻き起こる。

「金賢妃様、さすがでございます!」
「金賢妃様についてきて良かった……!」
「私も、いや、私達も精一杯頑張らさせて頂きます!」

 彼女達の決意を見届けた春蘭は、ほっと息を吐きながら穏やかな笑顔を見せたのだった。

◇ ◇ ◇

 馬族との交渉の場に向かうべく、春蘭は浩国らと共に後宮を出て北方の要塞のひとつである虎楼城へと移動する日が訪れた。

(御輿に乗って移動するんだ)

 女官達に促され、専用の御輿に乗り込む春蘭。御輿の前後には馬が隊列をなして待機している。

「あ、そういえば陛下はどう移動されるのですか?」

 春蘭からの質問に対し、女官は馬に乗って移動するみたいですよ。と答える。

(御輿には乗らないんだ……)
「本来は金賢妃様と同じく、専用の御輿に乗って移動されるご予定でしたが、もっと身体を使わねばならない。とおっしゃってお断りされたようでございます」