部屋には春蘭ひとりが取り残された形となるが、すぐさま廊下で待機していた女官達が戻って来た。

「金賢妃様。お疲れ様でございました」
「皆さん……お、おかえりなさい……」
「あの、お顔が優れないご様子に見受けられますが……」

 女官達が春蘭の異変に気がつく。春蘭は我慢しきれずに実は……。と切り出したのだった。
 全てを聞いた女官達は驚きのあまり大きな声を出す。

「皆さんお、お静かに!」

 春蘭がし――っ! と、右手の人差し指を口元に立ててざわめく女官達へ静かにするように促す。女官達は慌てて口元を両手で覆った。

「し、失礼いたしました……」
「申し訳ありませぬ、金賢妃様……」
「いえいえ。こちらこそ驚かせてしまってすみません……」
「しかしながら金賢妃様。馬族の女達は一筋縄ではいかない者だらけでございますよ?」

 中年くらいのふくよかな女官が、眉間に皺を寄せながら春蘭へ近づく。

(まあ、確かに馬族の人達は怖いけど、やるしかない)