「ああ……実は皇帝陛下は今日の夕餉をここでお召し上がりになりたいという事で」
「なるほど。それは面白そうですわね」

 ほほほ……と上品に笑う周充儀と、にこやかに笑う雪。両者が見せる笑みは全く違うのが、春蘭の興味を引く。

「あの、よろしければ見ていきますか? ちょっとばたばたしてはいますけど……あ、あと生け花について見立てて頂けますと嬉しいです」
「ああ……生け花はこのような具合でよろしいかと。では、お言葉に甘えさせて、準備のご様子を拝見させて頂きますわね」

 確認を終えた生け花はそのまま飾られ、2人は大広間の左奥のすみっこに立ち、女官達が作業しているのを眺め始めた。2人に気が付いた女官達の間から一気に緊張感が漂い始める。

(気が引き締まってるなあ……さすがは周充儀)

 春蘭は厨房と大広間を行ったり来たりしながら、女官達に指示を出したり、自身も調理をこなしたりと行動する。
 
(人に指示を出すの、最初は慣れなかったなあ……)

 彼女の脳裏には、前世での記憶が掘り起こされていた。