金春蘭。幻彩の後宮に登場する女性キャラクターで皇帝陛下の妃のひとり。年齢は10代後半で位は皇后の下、四夫人のひとつである賢妃である。
 しかし、ゲーム内に彼女のイラストはまだお披露目されていない。さらにセリフ自体はあるもののボイスは付いていないというまさに典型的なモブキャラなのだ。
 たまたま彼女が金春蘭の名前を思い出せたのは、昨日読み進めていたメインストーリーに、彼女の出番がほんの少しだけあったからだろう。

(え……これ、異世界転生ってやつ? でもって私、モブに転生しちゃった?)

 頭を抱える春蘭を、女官達はおどおどしながら見つめていた。

(じゃ、じゃあ……私の見た目どうなってるの? 金春蘭はまだ立ち絵自体出てないからわかんないし……!)
「金賢妃様、医者がお越しになりました」

 女官に先導される形で、医者が部屋に入ってくる。医者は老いた男性でやや背中が丸まっていた。

(この人は見た事ないや)
「金賢妃様、お目覚めになられて良かったですのぅ……もうダメかと」
「あの、何かあったのですか?」
「金賢妃様は馬から落ちたのでございますよ」

 春蘭は後宮内で女官や妃達と共に馬に跨り遊戯に興じていた所、突如馬が暴れ出しその弾みで落馬してしまったのである。
 身体のあちこちに打撲を負った彼女は気を失っていたのだった。