火鍋用の鍋を見せる料理人へ、春蘭は陛下は辛いものは大丈夫なのかと尋ねる。

「少々辛いのでしたら大丈夫でございます。しかし、風味に癖があるものは苦手でございますね」
(やっぱり!)

 春蘭は火鍋用の鍋には水を入れて一切れの昆布を入れて浸け置くと、料理人から何をしていらっしゃるんですか? と問われた。

「昆布から出汁を取り、その出汁を使って鍋料理を作ってみようと思いまして」
「香辛料は使わないのですか?」
「はい。ひとまずは。あの、豚肉を薄く切ってくださいますか?」

 豚肉を指さす春蘭へ、料理人は低く芯の通った声でかしこまりました。と返事をする。

「どのくらいに薄く切りましょうか?」
「若干透けて見えるくらいにお願いします」

 料理人達が春蘭の指示通りに豚肉を切る。見事なしゃぶしゃぶ用豚肉が完成すると、しばらく浸け置いた昆布の入った鍋に火をつける。

(だしは濃いめがいいもんね……)

 沸騰直前の所で昆布を取り出し、少しだけ醤油を入れたらしゃぶしゃぶ用の豚肉を鍋に入れる。

(あまり煮詰めない方が、硬くならない)

 豚肉に火が通ると、鍋の火を止めて出来上がり。となる。