春蘭が白徳妃を緊張の面持ちで見つめていると、白徳妃はふふっ。と笑った。

(ん? なんか変な匂い……臭い?)

 広間の右隅に小さな香が焚かれてあるのを見つけた春蘭は白徳妃に香を消すようにと遠慮がちに告げた。

「あら、臭かったかしら?」
「はい、正直に言うと……」
「……仕方ありませんわね。香は全て取りますね」
(あ、怒ってるかも?)

 春蘭が女官達に香を撤去するように指示を出す白徳妃に対し、申し訳ありません。と謝罪する。

「あ、いえ、お気になさらず。こちらこそごめんなさいね」

 と言って女官達と香を片付ける白徳妃。すると広間の扉が開かれ、浩国が宦官達を引き連れて現れた。

「待たせたな」
「陛下――!」

 白徳妃が浩国の腕に抱きつくと、浩国は腕を振り払い席に座ろうとする。

「!」

 白徳妃は一瞬だけ驚くが、浩国に続いて席に座る。春蘭はどうしていいかわからないできょろきょろしていると、浩国に声をかけられた。

「金賢妃。そなたも座ると良い」
「は、はい……」

 春蘭も椅子に座ると、女官達がぞろぞろと料理が盛り付けられたお皿を片手にやって来る。

「陛下、お腹がすきましたか?」
「ああ、白徳妃。いつもより空いている気がする」