「花音、早くいこ。スクールバスに乗らないと」
「ああ、わかった――」

 友人達を追いかけるようにして、彼女は早歩きで教室を後にした。
 大学の正門手前に停車しているスクールバスに乗り込んだ花音は、トートバッグからスマホを取り出す。

「よし、さっさとイベント進めとこ」

 彼女が最近はまっている中華後宮風の乙女ゲーアプリ「幻彩の後宮」を起動させた。
 この「幻彩の後宮」というゲームを簡単に説明すると、貧しい町民である主人公が町で強盗にあった女官を助けた事をきっかけに女官として後宮入りし、出世していく……というゲームである。主人公には個別に名前を設定でき、キャラガチャ(排出されるのは男性のみ)を引くと、手に入れたキャラを攻略する事が可能になるのだ。皇帝は勿論、将軍や医者、その他さまざまな魅力的すぎる男性キャラとの恋愛を楽しむ事が出来る。
 ちなみにストーリーには女性キャラも登場するのだが、そこは乙女ゲー。個別に攻略していく事は不可能だ。しかしストーリーで主人公の味方となってくれるキャラも複数存在はする。

「まもなく、駅に到着いたします。降りられる方は準備をお願いします」

 花音を乗せたスクールバスが駅に到着すると、花音は慌ててスマホをトートバッグにしまい、友人達と共にバスを降りた。