白徳妃の住まう区画までやってきた春蘭。先に到着した周賢妃達は既に彼女の部屋で問答をし始めていたのでこっそりと耳を壁に当てて中の様子をうかがう。

「嫌ですわ。どうしていきなり調査をしなければならないのかしら? 賢妃に昇格したからって思いあがるんじゃあありません事よ」
「いえ。陛下に催眠剤を盛った薬師がこちらの方角へと逃れてきたという報告をお受けしただけですの。陛下に何かあっては一大事でございますから、調査にご協力いただけないかしら?」

 声だけでもバチバチとしたひりつく雰囲気が理解できる。春蘭はひえっ……。と小さく声を漏らしながらも耳を傾け続ける。

「周賢妃様! 例の薬師を捕縛しました! 近くの物置小屋にいましたよ――」
「あら雪。やりましたわね」
「へへっ。やっぱり周賢妃様から褒められると嬉しいですね。これからどうします?」
「は、離してください!」

 ここで一度、会話は途切れた。糸を張り詰めたかのような緊迫感が春蘭にも伝わって来る。

「白徳妃様。この部屋、調査させていただいても構いませんか? この事は陛下にもお伝えいたします」