魅惑的な宇翔の微笑みに心を揺らめかせながらも、春蘭は浩国の偏食を無くす方法や、その調理方法を考える。
 考えた案は宇翔や女官達に話し、意見を聞くのも忘れない。とはいえ彼女に気を遣っているのか、否定は無かったが。

「あ、金賢妃様。私はこれから仕事がありますのでこれで失礼いたします」
「宇翔さん。ありがとうございました」
「いえいえ、また何かありましたらお気軽にお呼びくださいませ」

 宇翔を見送った後、入れ替わるようにして話の的となっている浩国が訪れた。
 紙に春蘭の案を書き留めていた女官が慌てて紙を隠す。

「金賢妃。心配であったからまた来た」
「陛下。おそれおおい事でございます……」
(あっそうだ。彼と一緒に食事をすれば……雰囲気とかわかるかもしれない!)
「陛下! もしよろしければ……私と夕餉を共にしませんか?」

 春蘭からの申し出に、浩国の動きが止まった。

「俺と食事を一緒に、だと?」
「はい! いけませぬか?」
(誘い文句、これで良かったかなあ……でもこれ以上思いつかないし……!)

 頭の中で焦りを見せながら頭を下げている春蘭を、興味深そうに浩国は見つめていた。

「そなたは、そのような事も言うのだな」
「は、はい……あの、おかしな事でもおっしゃいましたでしょうか?」
「いや、まさかそなたから誘われるなんて思わなかった」

 すると廊下からどたどたと豪快な靴音が聞こえてくる。

「金賢妃、匿わせてくれ」
「えっ?」

 浩国は部屋にある棚の中に身を隠す。そして廊下からは陛下! と男性のものと思わしき大きな叫び声がこだました。