どうやら浩国は全く覚えていないようだった。

「とにかく。もうお前の作った食事は食べない。とおっしゃいましたが、覚えていません?」
「ああ……あれ?」

 混乱する様子を見せる浩国。ここで宇翔はすぐさま薬師を指差す。

「これ、飲めば良い心地になるような薬ではないでしょう」

 宇翔の指摘に薬師は身体を小刻みに震わせ、両手指を動かしあからさまに落ち着きのない様子を見せた。

「夢見心地と言うよりも、誰かの言う通りになるような、そのような薬ではないのですか?」
「あ……」
「催眠剤とあなたはおっしゃった。なら、効果は誰かの益になるようなものでないとおかしい気がしますがね」

 紫色になった唇をプルプルと震わせる薬師に、宇翔は作業場を見せるようにと告げる。

「くっ……」
「ここは私達の言う通りにした方が賢明ですよ?」
「……わ、わかりました……」

 薬師は観念したかのように顔をがくりと下に向けた。春蘭はすぐに彼女へ作業場へと案内するようにと指示する。