浩国がいたのは皇帝専用の書斎だった。茶色い長机の周囲には本棚や木簡が置かれた棚がぎっしりと配置されている。浩国の目はややうつろな状態となっているのが見えた。

「陛下。金春蘭でございます」

 おそるおそる春蘭は浩国に声をかけてみる。すると浩国はぼんやりとしたまま春蘭を見ようともせず来たか……。と呟いた。

(なんだか反応がゾンビみたいになってるじゃん! な、なんで急にこんな事に……)
「そなたの食事には毒が入っていると聞いた」
「どなたから聞いたのですか?」
「……えっと……」

 頭を抑えながらしゃがみ込む浩国に春蘭と宦官達が近寄っていく。

「陛下! 大丈夫でございますか?」
「ちっ近寄るな!」

 浩国が春蘭を拒絶する。

「とにかく。もうお前の作った食事は食べない」
「……っ」
「下がれ」
(……! うそでしょ……)

 宦官達からも今のうちに早く戻った方がいいですよ……! などと小声でささやかれた春蘭は失礼します。というと早歩きで栄華宮へと戻っていく。
 春蘭の脳裏には浩国の正気の無い顔がはっきりと映し出されていた。

(……もうお前の作った食事は食べない。か……ショックだな……でも、これは浩国の本心じゃないような気がする……)