「あ、その……お忙しい所来てくださりありがとう、ございます」
「いえ、お気になさらないでください。金賢妃様、何かございましたか? 落馬の傷が痛むとか……」
「実はですね。皇帝陛下の食の好みと嫌いなものについてお伺いしたいのです」
「ほほう……でしたら私が詳しくお教えいたしましょう。どなたか、髪か何かに書き留めておいた方がよろしいかと」

 女官の一人が文房具一式を取り出し、筆に墨を付けて書く体勢に入ったのを確認して、宇翔はでは……。と口を開く。

「まず好きなものから参りましょう。みずみずしい果物と、柔らかく煮て味を濃い目に付けた鳥肉。そして炊き込みご飯でございます」
(なるほど……)
「そして嫌いなものは野菜と肉、魚でございます。鳥肉なら先ほど申し上げました通りに調理すれば食べられるのですが、それ以外となるとダメのようですね」
「かなり幅が広いですね……なぜ嫌いなのかについてもお伺いして構いませんか?」
「ええ、野菜は特に山菜のような癖のあるものが苦手でございます」
(ああ……なんかわかるかも)

 春蘭の脳裏には前世でのある体験が浮かび上がっていた。幼い頃母方の祖母がぜんまいやふきを煮た物を作り食卓に並んだ時の事。食べてみると思ったよりも癖があって吐き出してしまったのである。