(この世界だと罪を犯した妃は冷宮送りになるのはゲームと変わらないのね)

 幻彩の後宮内では罪を犯した妃は大体冷宮と呼ばれる隔離場所送りとなる。勿論殺人と言った重い罪を犯せば斬首……死刑は免れない。冷宮は一度入れば基本二度と抜け出せない場所で、日当たりも良くなく扱いも妃以下のものとなるのだ。
 
(白徳妃は冷宮送りを免れたって訳か。とりあえずは婚儀の前に騒ぎが解決して良かったな。そう言えば浩国はもう雑炊食べたかなあ……)

 ぼ――っと夜空を眺めながら、春蘭は考え事にふけっていた。

◇ ◇ ◇

 薬師に指示を出した直後に騒ぎが起こり処罰された白徳妃は、部屋の中にある椅子に腰かけてお茶を飲んでいた。

(そうだ。香で駄目なら丸薬にして飲ませれば良い。それに私は今、処罰されている……逆に考えれば都合が良い状態じゃないの)
「誰か、薬師を連れてきてくださる?」
「かしこまりました。白徳妃様」

 しばらくすると中年くらいの女性の薬師が白徳妃の前に現れた。この薬師には白徳妃が後宮入りしてからの、長い付き合いがある。

「いかがなされましたか? 白徳妃様」
「この香の成分を凝縮させた丸薬をいくつか作って陛下に朝昼晩と1日三度飲ませてほしいのです。香では効果が得られないようで」
「かしこまりました」
「無味無臭になるようによろしくお願いしますわね? 特に臭いはしないようにしなければ怪しまれてしまいますから」

 薬師はうやうやしく頭を下げると、こつこつ……。と靴音を鳴らしながら退出していった。

(あとは……陛下に「毒」を飲ませたのは金貴妃様だという事にすれば良いのだわ)

◇ ◇ ◇
 
 そしていよいよ、婚儀の日が訪れた。夜明け前から後宮内はばたばたと大忙しの状況となっている。なぜなら宴には後宮の妃や女官達も駆り出されるからである。

「おはようございます……」
「金賢妃様。おはようございます」

 女官達の顔には少し疲労の線が現れていた。春蘭は無理しないように。と良心から来た言葉を吐く。

「お気遣いありがとうございます。でも婚儀の宴と聞くとどうしても楽しみな気持ちが勝ってしまいますね」
「私もそうでございます。やっぱりお祝い事ってわくわくしますよね」
(アドレナリンって訳ね)