春蘭は栄華宮の厨房で浩国用に雑炊を作る。温め直す事が出来るように小さめの鍋で作り、完成したら女官へ持っていくようにと伝えた。

「かしこまりました」
「熱いから気を付けてくださいね。冷えていたら厨房の料理人へこの鍋ごと温め直すようにって伝えて置いて」
「はい」

 彼女の背中を見送った春蘭は、婚儀の宴で作る予定の品々が書かれた書置きに目を通す。宴だが儀式的要素もある為提供する品々は昔から変わらない。しかしちょっぴり春蘭は品を数種類追加していた。

(ハンバーグと……炒飯に……麗美が好きな葱油餅……忙しくなりそうだ)

 春蘭は書置きを眺めながら、夕食を頂いていたのだった。

◇ ◇ ◇

 雑炊を持って来た女官の元へ、白徳妃の命を受けた薬師が現れる。

「あら、そちらの雑炊は?」
「ああ、陛下が金賢妃様に作ってほしいと仰せになられたので、持ってまいりました」
「そうでございましたか。では私もご一緒させてください」

 薬師と女官は2人で浩国のいる部屋へと入る。

「陛下。金賢妃様がお作りになられた雑炊をお持ちしました」
「ありがとう。机に置いておいてくれ」
「かしこまりました」

 女官が去っていくと、薬師は作り笑いを浮かべながら丸薬を浩国に見せる。

「最近陛下は偏食も無くされ身体づくりに邁進なさっているとお聞きしました。そこで私、栄養剤をご用意いたしましたが飲んでみますか?」
「……わかった、試してみる。春蘭も喜ぶだろう」
「では、こちらに置いておきますね。私はここで待機しておりますから」
 
 薬師は浩国が夕食と丸薬を頂くまで、その場に待機し続けたのだった。

◇ ◇ ◇

 夕食後、入浴を済ませた春蘭の元へ女官が申し上げます。と声をかけて来る。

「はい、なんですか?」
「白徳妃はしばらく謹慎処分となるそうです。本来ならば冷宮送りになってもおかしくはないのですが、今回は特別にという事で陛下のお情けがあったとか」
「そうだったんですね。報告ありがとうございます」

 優しいなあ。と胸の中で漏らす春蘭は、窓からすっかり真っ暗になった夜空に浮かぶ月を見上げる。形は半月と満月の中間くらいと言った所か。