(そうよ。金貴妃様を陥れたら……あの妃はいずれ私の障害になるのは確定しているようなもの。だったら……) 

 白徳妃は香にぎゅっと力を込めたのだった。

◇ ◇ ◇

 昼。浩国と春蘭は共に昼食を取っていた。栄華宮の宮女達が用意した料理を浩国は避ける事なく美味しそうに頂いている。

「やはり食は大事だな。おろそかにしてはならないものだ」
「陛下のおっしゃる通りでございます。食は我々が生きていくのに欠かす事の出来ないものでございますから」

 浩国は葉野菜と卵と薄めの牛肉の炒め物をもぐもぐとよく味わいながら食べていると、女官が春蘭に声を掛ける。

「金賢妃様。周充儀様がいらっしゃいました」
「お食事中でも宜しければ、お通しください」

 数分後。周充儀が雪達女官を伴い現れた。しかし彼女の顔には笑みは無い。

「陛下。金賢妃様。お食事中失礼いたします」
「周充儀。何事だ?」
「どうやら、異臭の騒ぎがいたしまして……」

 異臭という言葉に浩国は首をかしげる。春蘭はそういえば……と記憶をたどり始めた。

(もしかして、さっきの白徳妃の香の事かな?)

 あれから謝罪文を書いた春蘭。後は白徳妃に渡すだけとなっていたのを思い出していた。しかし臭いをかがないと断定はできないので今白徳妃が犯人だと決めつけるのは早計だ。と自制する。
 そして炒め物を飲み込んだ浩国は、朱塗りの椅子から勢いよく立ち上がった。