春蘭の決意に女官達は互いに反応を見合った。

「金賢妃様が本腰を入れて対応くださるなら直るんじゃないかしら?」
「でも、陛下は苦手な食べ物が多いですし……」
「あの、金賢妃様。これまで皇帝陛下の偏食を無くした者は誰ひとりとしておりませぬが……」
(でも、やってみなくちゃわかんないよね)
「やってみます」

 凛とした春蘭の声に、女官達は首を縦に振ったのだった。
 春蘭はよし。と呟くと薬膳の本を開きながら考えを巡らせる。

(そうと決まればまずは浩国の好き嫌いが何かを徹底的に調べる必要があるわね。浩国に詳しそうな医者と言えば……宇翔(ユーシャン)か)
「あの、陛下付きの医者を呼んできてほしいの」
「かしこまりました」

 宇翔はゲームに登場する男性キャラクターの一人で、浩国付きの医者だ。いつも浩国につき従う程距離の近い彼は、浩国よりも背が高く、腰位まである長い黒髪には白いメッシュが入っており、細長い紫色の瞳をしている。まさにセクシーでミステリアスな雰囲気をまとった人物だ。

(この世界にも宇翔がいればいいけど)

 と考えていた春蘭の元へ、宇翔が訪れた。

「金賢妃様。ご機嫌麗しゅうございます」

 低く芯の通った声に、目を細めて上品且つ妖艶な笑みを見せる宇翔に、春蘭はごくりと唾を飲み込んだ。

(ゲームと一緒! てか、ゲームよりも顔面がすごい!)