「わかりました。では早速昼餉を作ってきます!」

 春蘭は椅子から勢いよく立ち上がると、厨房へと走って向かって行った。

「春蘭、今から作るのか?!」
(あ! そうだった! 本番はまだだし、そもそも虎楼城に食材はあるのかどうか……!)
 
 しかしながら麗美の配下達はすでにお腹を鳴らしながら、春蘭を期待を込めた目つきで見つめていた。それに彼女の背中を麗美が目を細めながら見ている。

「おやおや。春蘭様が直々に料理を作ってくださるのですか。どのような食事が出て来るか楽しみでございますね」

 やはりそこは馬族の族長。麗美の声音には警戒の感情が少しだけ漏れ出ている。この早とちりを自然なものに変える為、春蘭はよかったら調理工程を見てみますか? と麗美に尋ねると彼女は出来上がりを楽しみにしたい。と断った。

「配下の者達。気になる点があればどうぞ春蘭様についていってください」
「そうしたいのはやまやまなんですがあ」
「お腹が空いて動けません――」

 配下の者達は空腹で動けないようだ。麗美ははあ。とこれみよがしに眉を八の字にして呆れた表情でため息を吐く。

「春蘭様。まさか毒は盛ったりしませんよね?」
(やっぱり警戒してる――!)

 しかしここで信頼を得ないといけないのは事実。春蘭はそのような卑怯な真似はいたしません! と大きな声ではっきりと否定したのだった。
 
「春蘭は真面目な人物だからな、それに春蘭の食事は美味しいぞ。麗美殿。ぜひ楽しんでくれ」
「陛下がそこまで仰るのでしたら……」

 ふっと口角を釣り上げて笑う麗美には、悪女の如き風格がにじみ出ている。
 厨房に到着した春蘭は鍋を取り出すように料理人へ指示を出した。

(決まった、水餃子を入れてスープにしよう。でもって野菜とか入れて……ああ、そうだ。春雨あるかな?)

 春雨が無いか探していると、料理人のひとりがこれですか? と箱に入った透明な乾麺を見せて来る。

粉条(フェンス―)でございますかな?」
(おっ、春雨あるじゃん! 太めの麺がコンビニで売ってたスープみたいでいい感じ!)
「それです! ありがとうございます!」

 すると建物の外からばしゃばしゃばしゃと雨が降り注ぐ音が聞こえてきた。

(うわ、冷えてきたな……こういう時はなべ物が需要ありそうだし、ちょうど良かった)