夕方。日が傾きつつある空の下、大学の中庭にある桜はすっかり葉桜となって風に揺られていた。

「では、今日の講義はここまでといたします。明日の講義でアンケートを回収しますから覚えておいてくださいね」
「はい」

 今日最後の講義が終了し、学生達は次々に立ち上がって帰り支度をする。

「あっ」

 講義机からペンケースを落とした学生の名は花音という。今どきの茶色いボブヘアに白いマスクを着用した18歳の女子学生で、白いTシャツにグレーの長袖のパーカー、黒いジーンズといった具合のファッションだ。

「花音、大丈夫?」

 右隣に座っていた友人にペンケースを拾ってもらった花音は、ありがとう。と返しながら百均で購入した茶色いトートバッグに教科書やノートらと共に投げ入れた。

「花音てさ、アンケートにある栄養学の志望動機ってなんて書くの?」
「ああ……自分はアスリートを支える栄養士になりたいからって書くつもりかな」
「へえ……結構詳しく考えてるもんだねえ……私なんて書こうかな……」
 
 花音が所属する学科は栄養学科。栄養士を育成する学科となる。花音は中学時代から駅伝の選手として活躍していたが、高校2年の時全国大会に出るべく自身を追い込むという無茶をした結果、両足に疲労骨折を負ってしまった。それから彼女は駅伝ひいては長距離ランナーになる夢を諦め、アスリートを支える栄養士になるべく、勉学に励む事に決めたのである。