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 夏の花火大会のことだった。

 わたしは大学の友人である佐久間三智、豊岡淳と三人で見物にでかけた。
 わたしと三智はすぐ近くにあるわたしの家で浴衣を着つけ、髪を整えていった。

 もうすぐ打ちあげも終わるというとき、不意に視界が歪み、頬が熱くなった。
 ひとしずくの涙がこぼれていた。

 隣にいた三智が慌てて、どうしたの、とたずねてきた。
 前にいた豊岡もわたしを振りかえり、目に砂でも入ったのか、ときいてきた。

 痛いのは目ではなかった。
 喉の奥、胸のうえのほう、たぶんこころのあるあたりだった。

 嫌な予感がした。
 スマホがぶるるると震えた。

 懐かしい人からのLINE。
 春野綾のお母さんからだった。

 差出人の表示を見て、不安はいや増した。
 連絡がきたのは数年ぶり。
 便りのないのは元気な証拠。
 その逆は。

 メッセージは、綾の死を告げていた。

 嘘だ。
 嘘じゃない。
 なぜか納得しているわたしがいた。

 トーク一覧には、他にも未読メッセージの表示が出ていた。
 通知がされないようミュート設定していたその相手は、誰あろう綾だった。

 届いていたメッセージは、たったひと言だった。

『星佳は天才だよ』

 もうダメだった。
 全身から湧きあがってきた感情が、目から溢れでた。

 止まらなかった。
 立っていられなかった。

 三智が抱きかかえてくれた。
 豊岡はビニル・シートを広げてくれた。

 濡れた瞳で見あげると、まるいはずの花火が歪んで見えた。

 空のうえで、花が散る。
 花に手は届かない。