「ふあ、あ」
あごが外れそうなくらいのあくびがでる。
結局土曜は明け方まで絵を描いてから寝落ちして、起きたのは日曜の夕方。
そのあと深夜までまったく眠気がわかず、こうなったら夜はオールで月曜は朝から大学に行って夕方帰ったら即寝ようと決めて、また絵を描いた。
気がついたらもう朝で、準備して家を出たら急激に眠気がおそってきた。
生活がうまくいかない。
全部綾のせいだ。
金曜の徹カラも、土日のオールも、全部アイツが悪い。
こんなボロボロの体で大学に通うわたしは偉い。
超偉い。
学生の鑑。
ねむい。
一限は三号館の講義室。
並木道をがんばって歩く。
梅雨の晴れ間の太陽がまぶしい。
どうせなら雨でいい。
ひさしぶりの太陽が目に厳しい。
三号館のロビーには、いつもの面々がいた。
三智、豊岡、羽奈、そして綾。
なんであんたがいるの。
公開講義って夕方からでしょ。
こんな朝っぱらから来るなよ。
楽しそうにおしゃべりしやがって。
逆でしょ。
ベンチに座って談笑しているのはわたしで、あんたのほうが徹夜で作業しているべきでしょ。
思わず舌打ちがでる。
無視して講義室へ向かおうとすると、綾がベンチから立ちあがった。
大股でわたしのほうへと歩いてくる。
綾は、不穏な目つきでわたしを見すえた。
酷薄な笑顔。
綾はジャージのポケットに右手をしまっている。
「ねえ、悔しくないの?」
わたしのまえに立ちふさがる綾。
「は? 何が?」
「これだけ煽られて、悔しくないの?」
「何を悔しがれっていうの。わたし、あんたと関係ないし」
「あんたほんとに星蝕? あの傲慢で自信家で傲慢で貪欲でクソみたいに傲慢な天才はどこにいったの?」
「誰それ。わたしそんな人知らない」
「ねえ、なんで生きてるの? 殺しに来たのがバカみたい。もう死んでるじゃん。死んでるならちゃんと死ね。描かないなら死ね。生きないなら死ね」
脳の血管がつまる。
視界が狭くなった。
気がついたら手が出ていた。
「っ! ……なんでパー? グーで殴りなよ。指折れたっていいでしょ! 描かないなら折れよ!」
めずらしく綾と意見があった。
そうだ。
たしかにわたしは拳を握るべきだ。
拳をこいつの顔にぶちこむべきだ。
「星佳ちゃん」
と、羽奈がわたしの手をとった。
羽奈はいつの間にかそばに立っていた。
わたしの右手首をぎゅっと握りしめている。
音が戻ってくる。
視界が広がっていく。
三号館ロビーの喧騒が耳から入ってくる。
苦しそうな顔をした羽奈が、ベンチから立ちあがった豊岡と三智が、わたしたちを遠巻きにする同クラの顔が視界に入る。
「それはダメだよ」
と、羽奈が綾に向けて首を振る。
羽奈をにらみつけていた綾が、舌打ちをして顔をそむける。
わたしの手を握った羽奈が「今日は帰ろう」と歩きだす。
下を向き、手をひかれるままに進む。
床のタイルが、石畳になり、アスファルトへと変わる。
並木道の木漏れ日が道に複雑な模様をつくっている。
「星佳ちゃん、寝てないでしょ? おうち帰って休もう」
もう顔をあげる気力も、手を振りほどく元気もなかった。
ただ右足と左足を交互に動かした。
それ以外のことは、全部あとで考えることにした。
あごが外れそうなくらいのあくびがでる。
結局土曜は明け方まで絵を描いてから寝落ちして、起きたのは日曜の夕方。
そのあと深夜までまったく眠気がわかず、こうなったら夜はオールで月曜は朝から大学に行って夕方帰ったら即寝ようと決めて、また絵を描いた。
気がついたらもう朝で、準備して家を出たら急激に眠気がおそってきた。
生活がうまくいかない。
全部綾のせいだ。
金曜の徹カラも、土日のオールも、全部アイツが悪い。
こんなボロボロの体で大学に通うわたしは偉い。
超偉い。
学生の鑑。
ねむい。
一限は三号館の講義室。
並木道をがんばって歩く。
梅雨の晴れ間の太陽がまぶしい。
どうせなら雨でいい。
ひさしぶりの太陽が目に厳しい。
三号館のロビーには、いつもの面々がいた。
三智、豊岡、羽奈、そして綾。
なんであんたがいるの。
公開講義って夕方からでしょ。
こんな朝っぱらから来るなよ。
楽しそうにおしゃべりしやがって。
逆でしょ。
ベンチに座って談笑しているのはわたしで、あんたのほうが徹夜で作業しているべきでしょ。
思わず舌打ちがでる。
無視して講義室へ向かおうとすると、綾がベンチから立ちあがった。
大股でわたしのほうへと歩いてくる。
綾は、不穏な目つきでわたしを見すえた。
酷薄な笑顔。
綾はジャージのポケットに右手をしまっている。
「ねえ、悔しくないの?」
わたしのまえに立ちふさがる綾。
「は? 何が?」
「これだけ煽られて、悔しくないの?」
「何を悔しがれっていうの。わたし、あんたと関係ないし」
「あんたほんとに星蝕? あの傲慢で自信家で傲慢で貪欲でクソみたいに傲慢な天才はどこにいったの?」
「誰それ。わたしそんな人知らない」
「ねえ、なんで生きてるの? 殺しに来たのがバカみたい。もう死んでるじゃん。死んでるならちゃんと死ね。描かないなら死ね。生きないなら死ね」
脳の血管がつまる。
視界が狭くなった。
気がついたら手が出ていた。
「っ! ……なんでパー? グーで殴りなよ。指折れたっていいでしょ! 描かないなら折れよ!」
めずらしく綾と意見があった。
そうだ。
たしかにわたしは拳を握るべきだ。
拳をこいつの顔にぶちこむべきだ。
「星佳ちゃん」
と、羽奈がわたしの手をとった。
羽奈はいつの間にかそばに立っていた。
わたしの右手首をぎゅっと握りしめている。
音が戻ってくる。
視界が広がっていく。
三号館ロビーの喧騒が耳から入ってくる。
苦しそうな顔をした羽奈が、ベンチから立ちあがった豊岡と三智が、わたしたちを遠巻きにする同クラの顔が視界に入る。
「それはダメだよ」
と、羽奈が綾に向けて首を振る。
羽奈をにらみつけていた綾が、舌打ちをして顔をそむける。
わたしの手を握った羽奈が「今日は帰ろう」と歩きだす。
下を向き、手をひかれるままに進む。
床のタイルが、石畳になり、アスファルトへと変わる。
並木道の木漏れ日が道に複雑な模様をつくっている。
「星佳ちゃん、寝てないでしょ? おうち帰って休もう」
もう顔をあげる気力も、手を振りほどく元気もなかった。
ただ右足と左足を交互に動かした。
それ以外のことは、全部あとで考えることにした。