校門は開いていた。

 此度は堂々と歩いて出る。
 時間帯は放課後。
 わたくしはこの高校の制服をまとっている。
 わざわざ門扉をとび越える必要などない。

 擬態を解き、常の装いに戻る。
 銀髪に狩衣。
 これが一番身になじむ。

 と、カラスの羽ばたきが聞こえてくる。
 降りてきたツクネもまた擬態を解き、黒から白へと身を変じた。

「今回はけっこうムリをしたね、空」

 肩にとまったツクネが言う。

「願いをかなえるためとはいえ、自ら怪盗にならなくてもよかったと思うよ」

「つい興がのってしまった。夏焼宏樹の願いが秀逸であったがゆえだな」

 通りすがりに電信柱をみやる。
 その陰にかくれ、腕がなるぜ、などとほざいていたのを思い出す。

「実に気持ちのよいバカであった」

「しつこいようだけど、死者にも生者にも肩入れしすぎないようにね。思い入れが深くなればなるほど、傷つくのは空自身だ」

「わかっておるよ」

「キミと僕は誰の記憶にも残らない。僕たちだけが覚えている。思い出は毒だよ」

「承知しておる。……しかしだ。そういうツクネこそ、今回は率先して介入していたように思うぞ? 校舎を飛びまわり無施錠の窓を探すなど、キミらしくもない」

 わたくしが皮肉ると、ツクネは「カー」とひと鳴きして飛びたっていった。
 都合がわるくなると、カラスのまねをしてごまかすのがあの子のくせだ。

「……わかっておるよ」

 もう一度つぶやき、胸に手をやる。
 ここにはたくさんの人がいる。
 今回もまた、夏焼宏樹と佐久間三智の二人が加わった。

 いい子たちであった。
 だが悪い子でもあった。

 感情の向け先が見つからないときはこころの裡を探せ、とは我ながらよくいったものだ。
 あの言葉は、誰あろうわたくし自身に対し、幾度となくいい聞かせてきたものである。

 そは虚しい慰みにすぎないかもしれない。
 だが何であれこころが安らぐのであれば、それで何が悪かろう。

 弔いは()がために。
 そは見送るもののため。

 ゆえにわたくしは口ずさむ。

 花は散る。
 然らばせめて安らかに。

第二話 了