駐車場に座りこみ、空を見あげる。

「今日はいい天気だな」

「いますぐ雨が降ってほしいよ」

「佐久間、晴れは嫌いなのか?」

「花粉症がひどくてね」

「シイタケがいいとか聞いたことあるな」

「キノコは菌だよ。食べものじゃない」

「佐久間って本当味覚が小学生だな」

「逆にきくけど、夏焼くんは好き嫌いないの?」

「肉が好きだな」

「好き嫌いをきいて、まさか好きなほうをこたえる人間がいるとは思わなかった」

「いつも何食べてるんだ?」

「昼は購買の菓子パンだよ」

「野菜食えよ」

「野菜ジュースは好きだよ」

「あとヤクルトも飲んだほうがいいぞ」

「ヨーグルトならなんとか。ブルーベリー味なら食べられる」

 なんてことのない話をした。
 学校の話をした。
 家の話をした。
 将来の話をした。

 まるで友だちみたいだった。

「あれ、怪盗さんは?」

 気がつくと、白づくめの姿がなかった。
 さっきからずっと怪盗さんは黙って俺たちを見まもっていた。
 それがいつの間にか姿を消している。

 白い影が空を横ぎった。
 鳥だ。
 たぶん、白いカラス。
 白いカラスは、ブロック塀の向こうに降下していった。

 駐車場から歩道に出る。
 いた。
 道の向こう、はなれたところに怪盗さんの後ろ姿があった。
 その肩には、例の白いカラスが止まっている。

「おーい!」

 腹に力をいれ、早朝のすんだ空気をふるわせる。

 怪盗さんが振りむく。

 その目に映るように、大きく手を振る。
 俺のとなりにやってきた佐久間も、小さく手を振る。

 怪盗さんは手に持った桜の枝を胸にかかげた。
 遠すぎてよく見えないけれど、枝に咲いていた桜が散っているようだった。

「あ」

 佐久間の声。
 彼女は空を見あげていた。

 俺も顔をあげる。
 空からは、桜の花が、ひらりひらりと舞ってきた。