別の日には科学館に行った。

 科学館にはおもちゃみたいな展示がたくさんあった。
 いろいろな糸の長さの振り子を並べた展示、ハンドルを回して滑車やカムを動かす展示、ドップラー効果を体験する展示、顕微鏡やデジタル・スコープで生きものを観察する展示、プラネタリウム、楽器のシミュレータ、バイクのシミュレータなど、おもちゃというかゲームに近い展示まで、もう何時間も遊べるくらいにいろいろあった。

 本当はここでも魔法や魔術といった設定を用意していたけれど、そんなものが必要ないくらい、僕たちは夢中になって遊んだ。

 まりかさんはゾートロープが特にお気に入りのようだった。
 ゾートロープとは、原始的な動画再生装置みたいなものだ。
 二重の円筒から成っていて、外側の筒の側面にはスリットが開けられている。
 内側の円筒には連続写真のように静止画が並べて描かれている。
 外側の円筒を回してスリットからのぞきこむと、中の絵が動いて見えるというしかけだ。

「なんかこれ、走馬燈みたいだよね」
 まりかさんは走る馬の絵を見ながらそうつぶやいた。

 また別の日にはゲーム・センターに行った。
 反射神経をきたえるために音ゲーで勝負し、戦闘訓練という名目でロボットゲーや格ゲーで対戦をした。

「じい、弱いな!」

「姫さまに教えることはもうございません……」

 いつの間にか軍師からじいやに降格(?)させられるくらい、僕とまりかさんの間には腕前の差があった。
 僕もゲームは嫌いなほうじゃないけれど、まりかさんの年季の入りかたは半端なものではなかった。

 他には本屋さんや図書館に行った。
 黄金の夜明け団や薔薇十字団の魔術に関する本を立ち読みしたが、これはむずかしすぎた。
 まりかさんにも僕にもちんぷんかんぷんで、二人して顔中に「?」を並べるはめになった。

 占いグッズのお店では、並べられた怪しいグッズの数々にでっち上げの来歴をつけて遊んだ。
 長居しすぎてお店のお婆さんに「冷やかしは帰んな」と怒られた。
 逃げだしたあと、あのお婆さんは本物の魔女かもしれないとうなずきあった。

 まりかさんのリクエストで、何度かはうちでも遊んだ。
 僕の部屋に広げたレゴの世界で僕たちは世界滅亡のシミュレーションをした。
 淳くんと遊んで以来ずっとそのままとってあった世界を、数年ぶりに滅ぼした。

 一回だけじゃない。僕たちは滅亡を何度も繰りかえした。
 マンガやアニメ、ゲーム、小説に映画。
 あらゆる物語から借りてきた設定を並べたて、つくって、滅ぼして、つくって、滅ぼして、世界の美しさをかみしめた。

 お母さんやお祖母ちゃんが飲みものやお菓子を持ってくると、まりかさんは正座をして「お邪魔しています」とか「いつもすみません」とか礼儀正しく振るまった。

「魔族のご令嬢が、まるで人間の女の子みたいだ」

「うるさい。魔族は礼儀をわきまえてるの!」

 からかうと、まりかさんはぷいっとそっぽを向いた。
 人間みたい、というより借りてきたネコのようだった。

 うちには遊びに来たけれど、まりかさんの家には一度も行かなかった。
 マンションまで行ったのも、屋上へのぼったあのときだけだった。
 まりかさんが誘わなかったので、僕も行きたいとは言わなかった。