翌日の朝、まりかさんはいつもの待ちあわせ場所に現れなかった。

 遅刻ぎりぎりまで待ったけれど来なかったので、僕は先に登校した。
 授業が始まっても、彼女は来なかった。

 休み時間はスマホを見てすごした。
 まりかさんのアカウントも見てみたが、昨日から何もつぶやいてはいなかった。

 過去のつぶやきや『いいね』をさかのぼってみる。
 彼女のこころの変遷は、とても細やかで、ふとしたことに気づいて、悪意に傷ついて、理不尽に反発して、いろいろな人たちのこころのつまづきに寄りそって、寄りそいすぎて自分もこころを擦りへらして、ときに呪詛をつぶやいて、他人に攻撃的になろうとした瞬間に思いとどまって、そのとげとげしい気持ちを胸にしまいこんで……自分を傷つけてしまっているように見えた。

 いや、僕が彼女を知っているからこそ、そう見えただけかもしれない。

 もうすぐ三時間目の授業が始まろうというとき、「おあよー」と教室のドアが開かれた。

 振りかえってみると、声の主はやっぱりまりかさんだった。

 彼女はスクールバッグを持ったまま僕の席にやってきた。
 そして、もじもじとななめ下を見ながら「あ」とか「えっと」とかつぶやいた。

「あのさ」

 僕が声をかけると、まりかさんはびくっと肩をふるわせた。

「昼休みは滅活中止ね」

「え……」

 目を見開くまりかさん。

 まずい。言いかたが悪すぎた。

「あ、そうじゃなくて。ごめん、ちょっと待って。僕、理科委員だから五時間目の準備しなくちゃいけなくて、だから昼休みはなしで、放課後はちょっと行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

 慌てて一気にそう告げると、まりかさんは少し呆気にとられたようにフリーズしたあと、嬉しそうに笑ってみせた。

「うん! 行こう!」