夜に桜が咲いていた。
 明るい夜だった。
 桜はぼんやり白かった。

 そして桜は散っていた。
 一枚、二枚、三枚。
 はらはらと花びらが舞っている。

「キミの願いをかなえよう」
 声がした。

 いつの間にか、桜のそばに人がいた。
 桜のように白い髪の毛をのばした女の子だった。

 年は中学生か高校生くらい。
 美人なんだけど特徴がない顔だ。
 声も澄んでいて、低くはないけど高くもない。
 もしかしたら男の子かもしれない。

 そんなことはないか。
 だって『魔女』と名乗っていたし。

「ここに願いを書きなさい」

 魔女は細長い紙を差しだしてきた。
 七夕のとき笹につける短冊だ。

 どうしよう。
 変なことになってしまった。
 ふざけ半分にメッセージを送っただけなのに。

「願いがあるのだろう」
 更に短冊を突きだしてくる魔女。

 あわてて受けとる。
 願いは、ある。
 あるけど……。

 顔をあげたら、魔女と目があった。
 魔女の目は金色だった。
 光っていてきれいだけど、怖かった。

 でも。
 この魔女なら、もしかしたら本当に。

 だから願いを短冊に書いた。
 そして魔女に差しだした。

 受けとった魔女は、どこからか取りだした箱に短冊を差しいれた。
 箱は木組みで、周りには真っ白な紙が張られている。
 提灯とか灯籠みたいだ。

「花は散る。然らばせめて安らかに」

 魔女が手を放すと、箱が宙に浮いた。

 そして中に火が灯った。
 周りの紙に、影が映しだされる。

 花びらだ。
 くるくると、花びらの影が回りだす。

 魔女は目を閉じ、声には出さず、唇だけを動かした。
 まるで呪文を唱えるように。

「……『花散りぬるを』」

 最期に魔女がそうつぶやいた瞬間。

 空に浮かぶ感触があって。

 筒の中に吸い込まれ。

 世界が明るく白くなった。