「……ろ、ロコさんですか?」
恐る恐る尋ねると、老婦人は少しはにかみながら答えた。
「ええそう。私、本名はひろ子って言うんだけど、本名以外で呼ばれるのは少し恥ずかしいわね」
やっぱりそうなんだ!
どうしよう……。
動揺を悟られないよう、慌てて笑顔を作る。
「そうだったんですね。てっきりスマイルボーイズのファンダム名の『ニコちゃんず』からきてるのかと思ってましたー。あはは……」
そんな私の様子を見て、ロコさんはすまなそうに眉をハの字に下げた。
「びっくりしたでしょ。こんなおばあちゃんでごめんなさいね」
「いえ……そ、そんなことないですっ!」
私がドギマギしながら答えると、ロコさんはふふふ、と笑った。
「でも良かったわ。うちには息子と娘がいるけど、もう二人とも独立しちゃってるしどっちもアイドルには興味が無いから、一緒に行ってくれる人がいなかったの」
確かに、この年になって母親と外出とかあまりないかも。
「そうなんですね。と、とりあえず中に入りましょうか」
私たちはそんな話をしながら二人で店内に入った。
どうしよう。こんなに年上の人と、それも初対面の人と出歩くのって初めて。
なんだか緊張してきた。
いったいどんな話をすればいいの?