「はい!」
 私は大喜びで頷き、それからふと気になって尋ねた。

「葵先輩は、誰かと踊る予定はあるんですか?」
 この問いは興味本位でもあり、みーこのためでもあった。
 みーこ、ずっと葵先輩が踊る相手のことを気にしてたもんね。
 多分、みーこだけじゃなく、時海に通うほとんどの女子が気にしていると思う。

「お誘いはたくさん受けてるんだけどね。特定の誰かと踊ったら、その誰かに迷惑をかけてしまいそうだから」
 葵先輩は苦笑した。

「葵先輩はアイドルですからね……」
 誰かをひいきしたら、その誰かがファンから嫌がらせを受けそう。

「……じゃあ、葵先輩も講堂で待機する予定ですか?」
 葵先輩が踊らず講堂に行くとなると、今度は講堂に人が殺到しそうだ。

「ううん、特別棟の屋上にでも行こうかなって思ってる。あそこなら人が来ないでしょう?」
 自分の存在が大きな混乱を招いたりしないように、後夜祭が終わるまで、夜の屋上で一人でいるのだろうか。

 そんなの、寂しすぎる……葵先輩は今年で卒業しちゃうのに。
 中学最後の文化祭が独りだなんて、そんなの、あんまりだ。

「あの、じゃあ、私の友達を話し相手にするのはどうでしょう?」
「え?」
 思ってもみなかった言葉だったのだろう、葵先輩は目を瞬いた。

「ああ、中村さん?」
「はい。彼女、葵先輩と二人で話がしたいみたいで。よろしければ是非!」
 身を乗り出す勢いで言うと、葵先輩は不思議そうな顔をしながらも頷いた。

「よくわからないけど、構わないよ」
 よしっ!
 私は座卓の下で拳を握った。
 賑やかし役にもなれるみーこがいれば、夜の屋上であろうと葵先輩が寂しさを感じることはないよね。

 きっと報告すれば、みーこからは大いに感謝されることだろう。
 それでもしも、万が一、二人がうまくいけば――お礼はパフェでいいよ、みーこ。