「うわあああ可愛い!」
ハムスターのケージが壁際に置かれた部屋にて。
私は漣里くんの隣に座り、『ふわもち』シリーズのぬいぐるみを抱えて大はしゃぎしていた。
ふわもちシリーズはビーズクッションのような、柔らかい感触が特徴のぬいぐるみ。
現在女子の間で大流行中で、テレビやSNSでも取り上げられている。
私はブームになる前から好きで、手のひらサイズのものをいくつか集めていた。
漣里くんがくれたのは体長一メートルほどの、インパクトのある巨大なイルカのぬいぐるみ。
デフォルメされた水色のイルカはとても愛らしく、手触り良好で、思わず顎を埋めてしまう。
癒し効果は抜群だ!
この大きさなら抱き枕にだってなるよね。良く眠れそう。
「こんな大きいぬいぐるみは初めて見たよ。どこで売ってたの?」
私はぬいぐるみを抱きかかえたまま訊いた。
「買ったんじゃなくて、ゲーセン。たまたま見かけて、取った。好きだって言ってたから」
私の反応が嬉しいらしく、漣里くんもご満悦の様子。
ふわもちシリーズの中でも特にイルカが好きだっていうのは、デート中に一回だけ話の流れで口にしただけなのに、覚えててくれたんだ……。
そう思うと、さらに喜びが倍増する。
「そのとき葵先輩もいたんだ」
「ああ。取れたのは兄貴のおかげ」
実力不足が悔しいのか、漣里くんは少しだけ不満そうに言った。
「なかなか取れなくて苦戦してたら、兄貴が店員に頼んでくれて。ちょっと押せば簡単に取れる位置に移動してくれた」
「ああ……」
そのときの光景が目に浮かぶようで、私は笑った。
葵先輩は自分の魅力をよくわかっている人だから、女性店員に声をかけたんだろう。
『取りたいんですけど難しくって……』と、眉を下げ、困った顔の一つもしてみせれば、どんな女性だって全力で助ける。それはもう間違いない。
「だから、俺の力っていうよりは、ほぼ兄貴の力」
「そんなことないよ。葵先輩が助けてくれたんだとしても、漣里くんが取ってくれた事実は変わらないもの。大切にするね」
イルカを抱きしめながら言うと、漣里くんもようやく表情を明るくしてくれた。
「あと、これもプレゼント。店の前を通ったときに、似合いそうだなと思って」
漣里くんは立ち上がって、机の引き出しから綺麗にラッピングされた袋を取り出し、私に手渡した。
ラッピングを見た瞬間、以前に漣里くんと行ったことのある雑貨屋さんのものだって、すぐにわかった。
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
感動しながら、私は丁寧にラッピングを解いていった。
中から出てきたのは、ヘアピンだった。
先端に水色の桜の花がついたヘアピンと、ピンクの桜の花がついたヘアピンが一本ずつ。
一目で気に入った。
ううん、気に入らないわけがない。
漣里くんが私のために選んでくれたものなんだから。
女の子とカップルしか入らないような可愛い雑貨店に、照れ屋の漣里くんが勇気を出して行ってくれたんだから――。
「気に入るかどうかはわからないけど……」
「ううん」
私は控えめな漣里くんの言葉を即座に否定した。
「好き。私、このヘアピン、大好き。ずっとつけるよ。大事にする」
私は早速水色の花がついたヘアピンを髪に留め、向き直った。
「どう?」
「可愛い」
漣里くんは小さく顎を引いた。
はっきりとした褒め言葉をもらって、喜ばない女子なんていない。
このヘアピンは私の宝物になる。
私は手元に残ったヘアピンをぬいぐるみの隣に置いて、漣里くんに近づいた。
怪我が治ったらキスしようって言ったよね?
ねだるような視線で思いは伝わったらしく、漣里くんは私の後頭部に手を回して引き寄せた。
目を閉じて、とても幸せなキスを交わす。
二度目のキスは、わずか一秒にも満たなかった記録を三秒ほど更新した。
ハムスターのケージが壁際に置かれた部屋にて。
私は漣里くんの隣に座り、『ふわもち』シリーズのぬいぐるみを抱えて大はしゃぎしていた。
ふわもちシリーズはビーズクッションのような、柔らかい感触が特徴のぬいぐるみ。
現在女子の間で大流行中で、テレビやSNSでも取り上げられている。
私はブームになる前から好きで、手のひらサイズのものをいくつか集めていた。
漣里くんがくれたのは体長一メートルほどの、インパクトのある巨大なイルカのぬいぐるみ。
デフォルメされた水色のイルカはとても愛らしく、手触り良好で、思わず顎を埋めてしまう。
癒し効果は抜群だ!
この大きさなら抱き枕にだってなるよね。良く眠れそう。
「こんな大きいぬいぐるみは初めて見たよ。どこで売ってたの?」
私はぬいぐるみを抱きかかえたまま訊いた。
「買ったんじゃなくて、ゲーセン。たまたま見かけて、取った。好きだって言ってたから」
私の反応が嬉しいらしく、漣里くんもご満悦の様子。
ふわもちシリーズの中でも特にイルカが好きだっていうのは、デート中に一回だけ話の流れで口にしただけなのに、覚えててくれたんだ……。
そう思うと、さらに喜びが倍増する。
「そのとき葵先輩もいたんだ」
「ああ。取れたのは兄貴のおかげ」
実力不足が悔しいのか、漣里くんは少しだけ不満そうに言った。
「なかなか取れなくて苦戦してたら、兄貴が店員に頼んでくれて。ちょっと押せば簡単に取れる位置に移動してくれた」
「ああ……」
そのときの光景が目に浮かぶようで、私は笑った。
葵先輩は自分の魅力をよくわかっている人だから、女性店員に声をかけたんだろう。
『取りたいんですけど難しくって……』と、眉を下げ、困った顔の一つもしてみせれば、どんな女性だって全力で助ける。それはもう間違いない。
「だから、俺の力っていうよりは、ほぼ兄貴の力」
「そんなことないよ。葵先輩が助けてくれたんだとしても、漣里くんが取ってくれた事実は変わらないもの。大切にするね」
イルカを抱きしめながら言うと、漣里くんもようやく表情を明るくしてくれた。
「あと、これもプレゼント。店の前を通ったときに、似合いそうだなと思って」
漣里くんは立ち上がって、机の引き出しから綺麗にラッピングされた袋を取り出し、私に手渡した。
ラッピングを見た瞬間、以前に漣里くんと行ったことのある雑貨屋さんのものだって、すぐにわかった。
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
感動しながら、私は丁寧にラッピングを解いていった。
中から出てきたのは、ヘアピンだった。
先端に水色の桜の花がついたヘアピンと、ピンクの桜の花がついたヘアピンが一本ずつ。
一目で気に入った。
ううん、気に入らないわけがない。
漣里くんが私のために選んでくれたものなんだから。
女の子とカップルしか入らないような可愛い雑貨店に、照れ屋の漣里くんが勇気を出して行ってくれたんだから――。
「気に入るかどうかはわからないけど……」
「ううん」
私は控えめな漣里くんの言葉を即座に否定した。
「好き。私、このヘアピン、大好き。ずっとつけるよ。大事にする」
私は早速水色の花がついたヘアピンを髪に留め、向き直った。
「どう?」
「可愛い」
漣里くんは小さく顎を引いた。
はっきりとした褒め言葉をもらって、喜ばない女子なんていない。
このヘアピンは私の宝物になる。
私は手元に残ったヘアピンをぬいぐるみの隣に置いて、漣里くんに近づいた。
怪我が治ったらキスしようって言ったよね?
ねだるような視線で思いは伝わったらしく、漣里くんは私の後頭部に手を回して引き寄せた。
目を閉じて、とても幸せなキスを交わす。
二度目のキスは、わずか一秒にも満たなかった記録を三秒ほど更新した。