夕陽の差す屋上で独り寂しく読書していた彼の姿が脳裏をよぎる。
 あまりにも嬉しくて泣きそうになり、私は強く目頭を押さえた。

「良かったね」
 おとついの、昼下がりの午後の光景を思い出す。
 移動教室だったらしく、漣里くんは相川くんたちと渡り廊下を歩いていた。

 相川くんと話す漣里くんの口の端は上がっていた。
 確かに、漣里くんは友達と笑っていた。

 胸がいっぱいになって、私はその光景をただ黙って見ていた。
 すると、漣里くんは三階にいる私に気づいて片手をあげた。

 私は微笑みながら手を振った。

 ねえ、漣里くん。
 友達と笑ってた漣里くんの姿が、私に手をあげて合図してくれたことが――その全てかどんなに、どんなに嬉しかったか、知らないでしょう?

 ――私は漣里くんと誰かが仲良くしてる姿、見たいな。誰かと笑ってる漣里くんを見てみたい。

 私の願いを、叶えてくれたんだね。

「もう独りじゃないんだね」
 涙を滲ませながら、万感の思いで微笑む。

「わ」
 漣里くんは私の肩に手をかけて引き寄せ、抱きしめてきた。
 相川くんたちが窓を開け放ったらしく、冷やかしの声が降ってくる。

「あいつらほんと邪魔だな」
 漣里くんは不機嫌そうに言って、身体を離した。

「明日の土曜日、なんか予定ある?」
「う、ううん、特には。お店の手伝いもしなくていいって言われてるし」
 まだ抱きしめられた余韻が全身に残っている私は、かちこちになったまま、ぎくしゃくと頭を振った。
「なら、家に来ない? 親も兄貴も真白に改めてお礼を言いたいって言ってる」
「わかった。じゃあ、お昼過ぎくらいにお邪魔するね」