「俺も小金井も変なところで辛抱強くて、意地っ張りだから、真白がいなかったら、俺たちはずっとすれ違ったままだった。これが相手のためになるって思い込んで、感情を麻痺させて、きっといまでも理不尽な状況に耐え続けてたよ」
 漣里くんは頭を傾かせて、私の肩に乗せた。

「状況を根底から覆したのが真白だ。真白は俺が独りでいるのが嫌だと、不幸になるのが嫌だと泣いてくれた。人に暴力を振るうなって言ったのも真白だろ。もしも俺があのとき、野田に一発でも殴り返してたら、皆が俺を見る目も違ってた」
 漣里くんは繋いだ手に、きゅっと力を込めた。

「やられてもやり返さずに耐えるなんて根性がある、お前は凄い奴だなんて褒められることもなかった。兄貴はうまく事後処理してくれたかもしれないけど、そもそもの始まりは真白だ」
「……そ、そう……かな」
 発言内容にも、私の手を覆う温もりにも、漣里くんが私の肩に頭を乗せていることにも――全てに私は動揺して、胸がドキドキと鳴りっぱなしで、聞こえてるんじゃないかと不安になる。

「そうだ。言っただろ、俺は真白に感謝してるんだって。疑うのか?」
 繋いでいた手が組み変わり、俗に言う『恋人繋ぎ』になる。

「う、ううん、そんなことは……」
 ざあ、と気持ちの良い風が吹いて、頭上の枝を揺らす。
 校舎の中から生徒たちの話し声が聞こえてくる。
 心臓が負荷に耐えかねて爆発しそうだ。

 続ける言葉に困って、逃げるように目線を上げると、校舎の中からこちらを見ている人影があった。

 相川くんだ。隣には同じクラスの男子もいる。
 購買部からの帰りなのか、彼は片手に紙パックのジュースを持っていた。
 相川くんは漣里くんと目が合うと、片手をあげた。
 そして、漣里くんと、隣にいる私を交互に指し、にやりと笑う。

 ラブラブだねー、とでも言いたいのかもしれない。

「なにやってんだ、守《まもる》の奴……」
 邪魔をされたとでも思ったのか、わずかに不機嫌そうな調子でそう言って、漣里くんは頭を上げた。

 私の肩から重みが消失する。
「守?」
「相川の名前」
 私の全身、頭のてっぺんから足の爪先までを、落雷にも似た激しい衝撃が貫いた。

「守が名前で呼んでいいかって聞いてきたから、別にいいよって……なに、その顔」
 口をあんぐりと開けている私を見て、漣里くんは怪訝そうな顔。
 名前で呼び合える友達ができたんだ……!!