「放せ!!」
「暴れるな! 無駄な抵抗は止めろ!」
「貴様は完全に護衛されている!」
「そこは『包囲されてる』じゃないのか!?」
 三人がかりで押さえつけられ、半ば引きずられるようにこちらへ連れ戻されながらも、律儀に突っ込む漣里くん。

「放せって言ってるだろうが!!」
 漣里くんは暴れながら吠えた。

 けれど、二人の生徒が加勢し、さらに後ろから羽交い絞めにされたため、逃げるどころか、ろくに動けなくなる。

「はっはっは。漣里は本当に照れ屋だな。素直にありがとうと言ってくれて良いんだぞ?」
 悠然とした足取りで漣里くんの前に立ち、再び白い歯を煌かせる元サッカー部部長。

「ありがた迷惑だっ!!」
 珍しく感情全開で叫ぶ漣里くんに、聞き分けのない子供を諭す親のような口調でみーこが言う。

「成瀬くん、せっかく守ってあげるって言ってるんだから張り切って守られようよ。遠慮しなくていいんだよ? 先輩の言う通り、成瀬先輩の弟は私たちの弟だもの」
 横に手を広げ、大げさなポーズを取ってみせるみーこ。
 うんうん、と頷いて同意を示す鉢巻軍団。

「……先輩まで敵なのか……」
 元々人より少ないエネルギーを使い果たしたのか、漣里くんはぐったりした。

「心外だなぁ、味方に決まってるじゃない。私たちは一致団結して成瀬くんを野田の魔の手から守ろうとしてるんだよ? これを味方と呼ばずになんと呼ぶ」
 至って大真面目な顔をするみーこ。
 漣里くんはもはや何も言わず、深くうなだれた。

 笑い声が聞こえる。
 慎ましやかな、それでいて不思議と誰の耳にも届く笑い声。

 振り返れば、そこには口元に手をやり、お腹を抱え、さもおかしそうに笑う葵先輩が立っていた。

「成瀬先輩!」
 この場に居合わせた他の生徒たちと同様、みーこがぽっと頬を赤らめる。

「おお、成瀬、おはよう! 弟が野田の蛮行にすっかり怯えて泣いていると言っていたが、だいぶ元気を取り戻したようだぞ! 数人がかりで捕獲したときなんて、陸揚げされた魚のように活きが良かった!」
「うん、これも皆のおかげだね、ありがとう。これから弟をよろしく頼むよ」
 にこやかな葵先輩の台詞に、ついにつもり積もった憤懣が爆発したらしく、漣里くんは羽交い絞めから力ずくで脱出した。

 葵先輩に詰め寄るや否や、胸倉を掴む。
 あくまで掴んだだけで、そのまま掴み上げなかったのは最後の理性なのだろう。

「いつ俺が怯えて泣いたって? 何がよろしくだ、お前、絶対楽しんでるだろ楽しんでるよな……?」
 さっきまでの状況はやはり相当にストレスだったらしく、葵先輩の胸倉を掴む手はわなわなと震えていた。