「お待たせしました」
 私は二つのガラスコップを乗せたお盆を持ち、漣里くんが待っている自室に戻った。

 ベッドに本棚、ぬいぐるみ。
 一歳しか年の離れていない男子に自分の生活空間を見られるのはなんだか恥ずかしい。

 漣里くんは小さな座卓の前に座っていた。

 この座卓は脚が折りたためるもので、使わないときは壁に立てかけている。
 可愛いウサギのキャラクターが描かれた座卓を見ても、特に感想はないらしく、漣里くんは無表情だった。

 物珍しそうに部屋の中を見回すことも、そわそわすることもない。
 仮にも女子の部屋にいるのに、ちっとも緊張してないように見える。

 漣里くんって、緊張することあるのかな?
 一体どうしたら彼は動揺するんだろう?

「どうぞ」
「どうも」
 しゅわしゅわと炭酸が弾けるぶどうジュースを受け取って、漣里くんは飲み始めた。

「おいしい」
 一応の愛想なのだろう、漣里くんはジュースを飲んでそう言った。
 できれば表情にもその感情を出してほしかったけど、彼にそれを望むのは贅沢というもの。

 ええ、だいぶわかってきましたよ?

「良かった。このジュース、お店でも出してるやつなんだ」
「そう」
 ……あ、また沈黙だ。
 会話早々、間が持たなくなったな。

「……テレビでも見る? それか、動画でも流そうか? 見たい動画とかある?」
「いや。何でもいい」
 あくまで彼はそっけない。

「じゃあ、テレビにしようか」
 私はテレビのリモコンを取り上げ、適当な番組で止めた。
 ちょうど人気上昇中の男性アイドルが出ている番組だった。

「この人、格好良いってSNSでも話題だよね」
「知らない。誰?」
 ですよね。
 ええ、そうでしょうとも。
 なんとなく想像はついてました。

「でも、私、この人より漣里くんのほうが格好良いと思う」
「は?」
 漣里くんは微妙に嫌そうな顔をした。

 さっきもこんな反応だったな。
 もしかして、褒められるのが嫌いなのかな?

「だって本当にそう思うんだもの。この雑誌にもモデルさんが何人か載ってるんだけど、漣里くんのほうが格好良いなぁって思う」
 私は本棚の雑誌を一冊引き抜いて、座卓の上に広げた。

「スタイルもいいし、身長だって175センチはあるでしょう? 困ってる人を放っておけないお人良しだし、性格もいいよね」
「……そんなことない。社交性もないし」
「うーん、そうかもしれないけど」
 私は雑誌をめくりながら言った。

「それが漣里くんの性格なら、それでいいんじゃないかな。無理に自分を変える必要はないと思う。その人にはその人の個性があるように、喋るのが得意な人もいれば苦手な人もいるんだよ。世の中の人間、みんながみんな話し上手で、聞き上手がいなかったら、うるさくて仕方ないんじゃないかな? なんで黙って自分の話を聞かないんだって、喧嘩も起きそう。うん、やっぱり、無口な人も世界には必要だよ」
 ぱらぱらと雑誌をめくって、男性モデルが載っているページを探す。