「ついでに言うと、さっきの台詞、お兄ちゃんは結構感動した――よっ」
葵先輩は最後の台詞で、野田の拳を振り払うように横へ弾いた。
拳を止められただけで力量を悟ったのか、野田はすぐに標的を葵先輩へと切り替えた。
憤怒の眼差しが葵先輩を貫く。
でも、葵先輩は涼しい顔だった。
いや――涼しく見えるのは表面だけで、内心は怒りの炎を燃やしているらしく、その目は据わっていた。
「何があったか知らないけど、誰がどう見ても悪いのは君たちだよね? 弟に何してくれてるの? 返答次第じゃ許さないよ?」
「てめえが許そうが許すまいが知ったことかボケ! いきなり現れて何説教かまそうとしてんだ、ああ!?」
私は耳を疑った。
先輩になんて口の利き方なの!?
「王子だかアイドルだかなんだか知らねえが、頭の悪い女子どもにちやほやされていい気になってんじゃねえぞ!」
「行く先々でハーレム作りやがって、目障りなんだよ!」
「ただの嫉妬だよね、それ」
吠える野田と上杉に、葵先輩は冷静に切り返した。
図星を突かれた二人の顔が赤くなり、野田は「上等だぁ!!」と叫んで葵先輩に殴りかかった。
「葵先輩――!」
「大丈夫」
悲鳴をあげた私に、漣里くんが言った。
絶対の信頼を置いているが故の、落ち着いた声で。
漣里くんの言葉を証明するように、葵先輩はがら空きだった野田の腹部を一撃した。
のみならず、腕を掴んでその巨体を回転させ、背中から地面に叩きつけた。
続いて後ろから強襲してきた上杉の拳をかわし、手首を掴んで捻り上げ、投げる。
ほんの数秒で二人は無力化されて地面に転がった。
……す、凄い。
まさか葵先輩がこんなに強かったなんて!!
そういえば、漣里くんは武術を葵先輩に習ったって言ってたような。
唖然としている間に、葵先輩は人差し指で眼鏡を押し上げ、最後に一人だけ残っている加藤を見た。
「ひっ!」
加藤は情けない悲鳴を上げ、仲間であるはずの二人を置いて逃げた。
勝敗が決した瞬間、背後から歓声があがった。
驚いて振り返ると、いつの間にか私たちの後ろにはかなりの数のギャラリーがいた。
ざっと十五人くらいで、男女比は女子が多く、その中には小金井くんの姿もある。
傷だらけの漣里くんを見て、さすがに責任を感じているのか、彼は気まずそうに眼を伏せていた。
「大丈夫? 成瀬くん」
息を弾ませ、駆け寄ってきたのはみーこだった。
「ああ、なんとか」
「漣里」
葵先輩が歩み寄ってきたため、私たちは会話を止めた。
みーこが脇にどけると、葵先輩は漣里くんの腫れた頬に手を伸ばした。
葵先輩は最後の台詞で、野田の拳を振り払うように横へ弾いた。
拳を止められただけで力量を悟ったのか、野田はすぐに標的を葵先輩へと切り替えた。
憤怒の眼差しが葵先輩を貫く。
でも、葵先輩は涼しい顔だった。
いや――涼しく見えるのは表面だけで、内心は怒りの炎を燃やしているらしく、その目は据わっていた。
「何があったか知らないけど、誰がどう見ても悪いのは君たちだよね? 弟に何してくれてるの? 返答次第じゃ許さないよ?」
「てめえが許そうが許すまいが知ったことかボケ! いきなり現れて何説教かまそうとしてんだ、ああ!?」
私は耳を疑った。
先輩になんて口の利き方なの!?
「王子だかアイドルだかなんだか知らねえが、頭の悪い女子どもにちやほやされていい気になってんじゃねえぞ!」
「行く先々でハーレム作りやがって、目障りなんだよ!」
「ただの嫉妬だよね、それ」
吠える野田と上杉に、葵先輩は冷静に切り返した。
図星を突かれた二人の顔が赤くなり、野田は「上等だぁ!!」と叫んで葵先輩に殴りかかった。
「葵先輩――!」
「大丈夫」
悲鳴をあげた私に、漣里くんが言った。
絶対の信頼を置いているが故の、落ち着いた声で。
漣里くんの言葉を証明するように、葵先輩はがら空きだった野田の腹部を一撃した。
のみならず、腕を掴んでその巨体を回転させ、背中から地面に叩きつけた。
続いて後ろから強襲してきた上杉の拳をかわし、手首を掴んで捻り上げ、投げる。
ほんの数秒で二人は無力化されて地面に転がった。
……す、凄い。
まさか葵先輩がこんなに強かったなんて!!
そういえば、漣里くんは武術を葵先輩に習ったって言ってたような。
唖然としている間に、葵先輩は人差し指で眼鏡を押し上げ、最後に一人だけ残っている加藤を見た。
「ひっ!」
加藤は情けない悲鳴を上げ、仲間であるはずの二人を置いて逃げた。
勝敗が決した瞬間、背後から歓声があがった。
驚いて振り返ると、いつの間にか私たちの後ろにはかなりの数のギャラリーがいた。
ざっと十五人くらいで、男女比は女子が多く、その中には小金井くんの姿もある。
傷だらけの漣里くんを見て、さすがに責任を感じているのか、彼は気まずそうに眼を伏せていた。
「大丈夫? 成瀬くん」
息を弾ませ、駆け寄ってきたのはみーこだった。
「ああ、なんとか」
「漣里」
葵先輩が歩み寄ってきたため、私たちは会話を止めた。
みーこが脇にどけると、葵先輩は漣里くんの腫れた頬に手を伸ばした。