「毎日、本当に暑いよね」
「夏だからな」
「でも、この一週間、ずっと猛暑日だよ? いくら夏でも、今年の暑さは尋常じゃないよ。こんなに暑いと参っちゃう」
「実際に参ってたしな」
「う……そ、それは、大変ご迷惑おかけしました。以後気をつけます」
「謝ってほしいわけじゃない」
 会話が途絶えた。

 からからと自転車のタイヤが回る音だけが流れる。

「……え、えーっと、夏休みが始まって一週間経ったけど、私は家の手伝いばっかりしてて、友達と遊んだことすらないんだよね。漣里くんは、どこか行った? 夏らしく、海とかさ」
「どこにも行ってない。家で引きこもってる」
「あー、うん、暑いもんね」
 ……あ、話題が元に戻っちゃった。どうしよう。
 私が話を振らないと、漣里くん、黙ったままだし。

 ちらりと漣里くんを見る。
 彼は私と視線を合わせようとはせず、前を向いていた。

 表情がなければ大抵、人は怒っているように見えるけれど、彼の表情は静か。
 怒りも悲しみも見当たらない、全くの無だった。

 うう、気まずい。
 どうにか話題を……話題を……ああ、思いつかない。

 葵先輩、助けて。
 仲良くしてほしいと言われましたし、できればそうしたいのはやまやまなんですが、私にはこの溝を埋める手段が思いつきません……

 内心で頭を抱える。

 あの後。
 葵先輩は漣里くんに「心配だから真白ちゃんを家まで送ってあげて」と頼んだ。
 私は断ろうとしたんだけど、漣里くんはさっさと外に出て行ってしまった。

 慌てて追いかけようとした私に、葵先輩は不思議なことを言った。

「ねえ真白ちゃん。試しに、漣里のこと褒めちぎってみて。きっと面白いものが見られると思うから」

 ……あれは、どういうことなんだろう。
 漣里くんを褒めたら、どうなるというんだろう。

 試してみたいけど、とてもそんな雰囲気じゃない。
 いまは会話にすら困っている有様だ。

 漣里くんだって、いきなり褒められても全然嬉しくないだろう。

 むしろ不気味に思われそうだ。
 ますます溝が開いちゃうよ。

「…………」
 いなくなってしまったのか、セミの声がしない。
 車の音と、人の声を聞きながら、私は男の子と二人、こうして並んで歩いている。

 漣里くんが押している自転車のかごの中にあるのは私の鞄。
 送ってもらえるのはありがたい。
 でも、それよりも、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 私はまた彼のお世話になっている。
 どうすればいいんだろう、この状況。

 年下の美少年と仲良く会話を繰り広げるスキルなんて、私は持ってない。

 何を話せばいいの。
 それとも黙ってるべきなの、どうしたらいいの。

 間が持たない……!
 困り果てていると、ようやく漣里くんが口を開いた。