「俺が何をしようと勝手に人は評価するし、言いたい奴には言わせておけばいいって思ってた。俺に関する酷い噂も、クラスメイトに邪魔だって言われたことも、本当に、真白が心配してるほど堪えてないんだ。また外野が何か言ってるなって、その程度」
 校門を出て、漣里くんは最後に締めくくった。

「独りには慣れてるから」

 それなりに長く続いた台詞は、そんな悲しい言葉で終わった。
 葵先輩も言っていたけど、漣里くんは元々不愛想で、あまり感情を出さない子だったらしい。

 それこそ幼稚園児の頃から、皆と子供らしくはしゃぎ回るより、教室の隅っこで本を読んだり、ゲームしたりすることを好んだ。

 小学校に上がってからも同様で、休日に友達と出かけたりすることは滅多になかった。
 漣里くんの世界は閉じていた。
 水槽の中の魚みたいに、見えない壁を作って、人との交流を拒んだ。

 だから、真白ちゃんと知り合って、口数が増えて、甘いものを食べに出かけたりするようになって――漣里が外に目を向けるようになって、とても嬉しい。

 真白ちゃんは良い変化を起こしてくれた。
「これからも漣里をよろしくね」って、私は葵先輩に頼まれたんだ。

「……漣里くんって、ヘミングウェイ好きなの?」
 屋上で彼が読んでいた本を思い出し、話題を変えてみる。
『老人と海』って、読んだことはないけど、おじいさんがカジキマグロを釣る話だよね。

「いや、初めて読んだ。兄貴が読書感想文のコンクールで賞をもらってたから。どんな話かって聞いたら、孤独な老人の話だよって言われて。図書室に行ったとき、たまたまその本を見つけて、そういえば兄貴がそんなこと言ってたな、って手に取っただけ」
「そっか」
 いまの状況が孤独というキーワードに重なって、漣里くんに『老人と海』を読ませたのかな。

「……ねえ、漣里くん。確かに人付き合いには面倒くさいこともあると思う。『出る杭は打たれる』って言うけど、あんまり我が強い人は敬遠されるし、だからって空気を読んで笑ってるだけじゃ、つまんない人間だって烙印を押されちゃう。人間関係って難しいよね」
 私は空を見上げた。

 ちょうど飛行機が飛んでいて、ゆっくりと空を横切っている。

「頑張って友達になっても、いざ離れると近くにいる人が優先になって、だんだん疎遠になっちゃうって、よくあることだよね。私も違う高校になって、そのままフェードアウトしちゃった子がいるよ。でもね、まだ連絡を取り合ってる子もいるの。SNSでもちゃんと繋がってるし」
 私は空から漣里くんに視線を移して、笑った。

「人との縁にも色々あるんだよ。もちろん良い縁のほうがありがたいけど、悪い縁だって成長する糧になる。人間関係にせよ、なんにせよ、失敗を経験したことのある人のほうが、次はうまく対処できるし、成功しか知らない人より魅力があると思わない?」
 私が手を伸ばすと、漣里くんは手を握ってくれた。