「じゃあ、私が漣里くんの彼女だって公表するね。ごめんね、事後報告になっちゃうんだけど、私、もう漣里くんのクラスの人には宣言しちゃったんだ」
 私は胸の前で両手を合わせた。

「さっき、漣里くんを探してるときに、あんた誰、関係ないだろみたいなこと言われたから。つい」
「別にいいよ。もう隠す必要なんてないんだから」
「うん」
 私はにっこり笑った。

 明日からは遠慮せず漣里くんの傍にいられるし、お昼も一緒に食べられる。
 やったーと喜んだところで、はっとした。

 喜ぶ前に、釘を刺しておかなければいけないことがある。

「この前は、私の悪口を言ってる人がいたら殴るなんて言ってたけど、駄目だよ。そんなの漣里くんの立場を悪くするだけなんだから、絶対駄目。私、暴力をふるう人は嫌い」
 夏休み終了間近、付き合うことを隠すか隠さないかで口論になったとき、漣里くんは問題発言をしたのだ。

 俺が悪く言われるのは構わない。
 でも、もし私の悪口を言ってる奴を見たら、俺は多分そいつを殴ってしまう、と。

「わかった。何があっても手は出さないって、約束する」
 念を押すように見つめると、漣里くんは真顔で頷いた。

「うん」
 これで後は……。

「……じゃあ、最後。漣里くんが野田くんに手をあげた理由、皆に話してもいい?」
「それは……」
 ここで初めて、全ての要求をすぐに飲んでくれた漣里くんの表情に迷いが生まれた。

「少しだけ待ってくれないか。嫌だっていうわけじゃない」
 私の機嫌を損ねることを恐れてか、漣里くんは珍しく早口で言った。

「黙ってるって約束して、これまでずっと黙ってたのに、ある日いきなりばらされたら、そいつも困ると思うし。心の準備だっていると思う。もちろん、そいつが嫌だって言っても、俺は真白を優先する。ただ、先に断りだけは入れておきたいんだ」
 それだけ言って、漣里くんは顔色を窺うように私を見た。

「うん。そうだね」
 私は笑った。
 他人を気遣う漣里くんの優しさを垣間見て、それでも私を優先してくれたのが嬉しくて。

「良かった」
 漣里くんはちょっとだけほっとしたような顔をした。

「その人って、五組の林くんだよね」
 和やかな空気の中、確認してみると。
「誰、それ」
 漣里くんは首を傾げた。

「…………え? 林くんじゃなかったの?」
 てっきりそうだとばかり思いこんでいた私は、目をぱちくり。

「あのとき俺が庇ったのは、真白と同じクラスの、小金井って奴だけど」
「へ」
 私は、唖然。
 小金井って……あの、ひねくれた秀才の、小金井くん?
 頭の中に、眼鏡をくいっと持ち上げる小金井くんの顔が浮かぶ。
 …………なんですと!?