「私のことよりも自分のことを心配して。クラスで孤立してるって、全然うまくやっていけてないって、どうして正直に言ってくれなかったの。私のためを思ってくれてるのはわかる、でも、それで私が本当に喜ぶと思ってる? こんな寂しい場所で独りでいる漣里くんを見て、私がどんな気持ちになったと思う?」

 漣里くんがどんなに温かい手をしているか、漣里くんのクラスの子も、他の子も、誰も知らない。

 それが悔しくて仕方ない。
 私は漣里くんの手を取ったまま、嗚咽して訴えた。

「お願いだからもっと自分のことを大切にしてよ。半年も他人のために泥をかぶってきたんでしょう、もういいでしょう? 本当のことを話そうよ。噂は全部嘘だ、野田くんたちを殴ったのだって理由があるって、皆に言おうよ。私はこの先ずっと聞きたくもない誹謗中傷を聞かなきゃいけないの? もう無理だよ、耐えられないよ。私は……」

 しゃくりあげて、さらに言葉を続けようとした瞬間。
 私の手から漣里くんの手が抜けた。
 そして、抱きしめられた。

「――?」
 びっくりしてしまって、言葉が止まる。
 背中に回っている漣里くんの腕、肩に置かれた手の感触に、これから言おうとしていた台詞が一瞬で消えた。

「ごめん。そんなに悩ませてたなんて気づかなくて――俺が我慢すればそれで済むと思ってた。でも勘違いだった」

 顔をあげれば、すぐそこに漣里くんの顔があって、ドキドキと胸が鳴る。
 私の体を抱く漣里くんの手に、力がこもった。

「本当にごめん」
 耳元で囁かれ、あやすように背中をさすられれば、ますます体が熱くなる。
 もういいよと一言言ってあげれば、それだけで彼が楽になるのはわかっているのに、喉の奥につかえて何も出てこない。

 私の頭の中は漣里くんの身体の感触と温もり、その匂いでいっぱいで、もう何も考えられない。
 恥ずかしいのに嬉しくて、幸せで、どうにかなってしまいそう。

「だからもう泣かないでくれ。真白に泣かれるのは、一番辛い。俺が悪かったから」
「…………うん」
 私は瞼を閉じて、肩の力を抜き、彼の胸元に顔を埋めた。

 言葉とともに、小さく頷く。
 すると、彼の手が離れ、抱擁が解かれた。

 ――あ。
 勇気を出して抱き返そうと思ったところだったのに、離れてしまった。

 なんだか寂しい。
 もうちょっと、なんて思うのは我儘かな。

 まだほのかに残る温もりを意識しつつ、改めて見ると、漣里くんは叱られた子犬みたいな顔をしていた。

 私が泣いたことがよっぽどショックだったらしい。

「じゃあ、これからは学校で私のこと、無視しない?」
「ああ」
 漣里くんは一も二もなく頷いた。

「明日からお弁当は一緒に食べてくれる?」
「真白が望むことはなんでもする」
「お昼は迎えに行ってもいい?」
「ああ」
 漣里くんはこれまた即答。
 本当に私の要求は全部飲んでくれるつもりのようだ。