始業式や服装検査が終わり、ホームルームの時間には来月行われる文化祭の出し物を決めることになった。
 まずはリーダー役、文化祭実行委員を決めなきゃいけないんだけど、誰も手を上げない。
 そこで、教室の左右に男女でわかれて話し合いが始まった。

「塾で忙しいからパス」
「私だって部活があるからさぁ……」
「私、みーこを推薦したいんだけどな」
 なかなかすんなりとは決まらない中、私は隣にいるみーこを見た。

「えっ? 私!?」
「あー、やっぱりみもっちもそう思った?」
 私を『みもっち』なんて変なあだ名で呼ぶほど仲の良い女子、佐藤五十鈴《さとういすず》が笑う。

 ショートカットの彼女は、バレー部の部長をしながら成績も上位だ。

「あたしもみーこが適任だと思った。むしろあんたがやらなくて誰がやるって感じだよねえ」
 五十鈴は後ずさったみーこの肩を後ろから掴んだ。

「えー、やだよ実行委員なんて面倒くさい!」
「いやいや、なんだかんだ言ったって、与えられた仕事は完璧にやり遂げてくれるじゃない。中学のときは生徒会長として全校生徒を導いてくれたでしょ? 黄色い腕章つけて部下たちを引き連れ、廊下を颯爽と歩く姿、格好良かったよ? 文化祭のときだって、校内に紛れ込んだならず者たちを一人でやっつけてくれたじゃない! あのときの豪快な一本背負い、いまでもあたしの目に焼きついてるよ?」
 さらに同じ中学出身の別の女子が言う。
「ああああれは黒歴史! 高校ではしとやかな女の子になるって決めたんだから! それに、副会長たちは私の部下でもなんでもないわよ!」 
「リーダーシップもあるし、頼りがいもある最高の女!」
「お願いしますっ、お姉さま!」
 お姉さま、というのは、みーこが四月四日生まれで、クラスの女子の中で一番年上だからくる形容。

「ぐううー」
 ノリの良い複数の女子たちに取り囲まれ、手を合わせて頭を下げられたらさすがに断りづらいらしい。

「あーもう仕方ないなー、やったろーじゃないの!」
「さっすがみーこ」
「やってくれると信じてた!」
 彼女は五十鈴たちの拍手を受けながら、黒板の『実行委員』の文字の下に自分の名前を書きに行った。
 男子の実行委員はじゃんけんで負けたらしい横峰くん、女子の実行委員はみーこということで決まった。

「それじゃ、第三希望の出し物まで決めたいと思います」
 黒板の前で横峰くんが言い、みーこは黒板に『第一希望』『第二希望』『第三希望』と続けて書いた。

 他のクラスとの兼ね合いがあるため、全クラスとも出し物は第三希望まで決めることになっている。
 何にしようか、何がいいかな、と皆が言い合う中、私の耳に届いたのは和気藹々とした空気に水を差す一言。