交差点では警察官が拡声器を持って人を誘導しているような状態だ。
 スマホを取り出してみれば、時刻は二十五分。

 あと五分しかない。
 このペースだと間に合わない。

 ただでさえ漣里くんを待たせてるのに。
 これ以上待たせたら、帰っちゃうかもしれない。

 不安に突き動かされた私は、通りから細い裏道に入った。

 この細道は人がまばらだ。

 全力疾走している私に皆が驚いたような顔をしている。
 半乾きの髪がぼさぼさになっていくのがわかるけれど、それもどうでもいいことだ。

 とにかく急がないと!
 これ以上漣里くんを怒らせないためにも、早く、一刻も早く――

 突然、視界が滑った。

「!?」
 転んだと気づいたのは、身体の前面と、右膝を地面にぶつけてからだった。

 全身を打つ衝撃に息が詰まり、すぐには起き上がれない。
 鞄が斜め前に転がっている。

 周りの人たちが見てくるけれど、大丈夫? と聞かれたりはしなかった。
 熱中症になりかけたときと同じ。
 みんな厄介ごとには関りたくないから、見て見ぬふりをしている。

 私は恥ずかしさと痛みと戦いつつ起き上がった。

 転んだとき、変に捻ったのかもしれない。
 地面に打ちつけた右膝よりも、左足首がズキズキ痛い。

 嘘でしょう?
 冗談でしょう?

 痛みによるものか、焦りによるものか、変な汗が噴き出してきた。
 こんなの気のせいだ、そう思い込んで立ち上がる。
 でも、痛みに負けてよろけてしまった。

 慌てて近くにあった電柱を掴み、呟く。
「……嘘でしょう?」

 この足じゃ走るどころか、歩くことさえも難しい。

 それでも、行かなきゃ。
 漣里くんが待ってるのに。

 痛みに歯を食い縛りつつ、歩く。

「――っ」
 たった五メートルの距離しか進んでいないのに、左足が悲鳴をあげる。
 苦痛で顔が歪んで、汗が頬を滑り落ちていく。
 これじゃ、シャワーを浴びた意味がない。

 私は一体、何をしてるんだろう。
 視界がぼやける。

 ダメだ、泣くな。こうなったのは全部自分の責任だ。
 わかってるでしょう?

 そう言い聞かせても、視界が歪むのを止められない。
 だって、本当は今頃、私は綺麗に着飾って、漣里くんと出店を見ながら歩いているはずで。

 皆と同じように、のんびりとかき氷でも食べながら、お祭りを楽しんでいるはずで。

 それなのに、なんでこんなことになったんだろう?

「……ひっ、く」
 漣里くんとの約束を優先して、お店の手伝いなんてしなければ良かった?
 私がいなきゃ、お母さんたちが大変だってわかってても?

 罪悪感に耐えられた?
 お祭りに行っても、本当に心から笑えてた?

 無理だ。そんなの決まってる。
 自分の性格は自分が一番よくわかってる。